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(更新:2016年2月26日)

【私事・私感】それでも彼女は荒野をめざす

「新卒フリーランス」22歳大好きなことで生きていく私の決断。|鳥巣愛佳@エアロビのお姉さん|note 「新卒フリーランス」22歳大好きなことで生きていく私の決断。|鳥巣愛佳@エアロビのお姉さん|note このエントリーをはてなブックマークに追加

こちらの記事に関して、案の定ネガティヴなコメントが目立ってしまっている。ネット上のコミュニティというのは当初からこの記事の彼女のような(善し悪しは置いておいて)社会的成功と自己実現を専らとするアグレッシブ系と、社会不適合性やコミュ不全をこじらせて文字通りネットを心身ともに最後の拠り所としてかろうじて自意識を保っているような手合いとの両極端によって支えられ発展してきたところがあると思うが、言うまでもなくこの二種類の人種どうしは極めて相性が悪い。そこへ世代間ギャップが重なってしまったものなら、是非はさておきこうした反応が起こってしまうのは当然の結果と言えるのではないか。

むろん、私は完全に後者の人種であり、つまるところあらゆる意味において負け組であり、そしてもはや彼女の年代の人たちから見れば明らかにさまざまな面から見てもロートルな世代の人間である。そういうかつての自分がまさに彼女と似たような空間および環境で過ごしていながら、どれだけ不毛で怠惰な時間をあたら食い潰して棒に振ってきたかを思えば、彼女の存在そのものがおのがコンプレックスと後悔とを著しくほじくり返し見せつけてくるのみならず、彼女のバイタリティそして実行力、コミュニケーション能力はどう理屈をこね回してみたところで否定しようがないものだし、だからこそ、そういう彼女自身やその言説に対する感情がどうしても(醜く黒い)嫉妬めいたものが大半になってしまうのはやむを得ないのだ。そして、そういう負け組の大人がいくら苦言めいたふりの言葉を投げたところで、彼女を止めたりその考えを自分が望むように都合良く「改めさせる」ことなどできないのは確実なのである。

だいたい、若者という人種が総じて視野が狭く向こう見ずで愚かしい存在であるのは当然の理であり、まして彼らは、とくに彼女などはその時点においての持てる力と経験と思考とを出来うるかぎり振り絞って真剣に傷ついたり悩んだりした上での結論に達しているのだ。そして、そういう存在に対して曲がりなりにも年だけは重ねてきた人間たちの優位というのは否定しようがなく揺るぎなくあるわけで、そうした立場から理由はどうあれ頭ごなしにネガティヴな言葉を説教とか忠告とかで体よく包装して投げつけて終わり、というのは、やはりそれこそ「大人」として好ましい態度ではないとは思う。まして、いったん客観的に見てみれば、この彼女はこういう発想でもってこうした決断をしこのような表明を堂々として、それを認められ受け入れられてしかるべき実績と経歴を充分に備えている、とは思われるのだ。……しかし、それでも、彼女のような発想、決断そして表明というものを純粋に応援し虚心に賛辞だけ送って終わるというには、私はやはり年を重ねてしまったし相応に社会の有り様を知ってしまっているのだ。

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この私のいたずらに過ごした年月における乏しい経験と貧弱な洞察力から見たところでも、この彼女はそう遠くない将来に九割九分九厘の確立で手ひどい挫折を味わうだろう、ということは、上掲の彼女の記事ひとつからでも予測できてしまう。彼女に限らずあらゆる分野で「イノベーション」を起こすうえでは不可避な不安要素を敗北主義の否定という思考と姿勢で心理面に置いて看過もしくは軽視していること、柔軟で決断力があるスタイルに実は権威やカリスマのありそうな存在に染まりやすく左右されやすい気質が透けて見えること、挑戦的な文言や行動の裏にさまざまに予防線が張られていること、そしてそうした気質の背景や動機におそらく保守的に過ぎる両親の有形無形の影響と束縛、それに対する反発反動が少なからずうかがえること……もっとも、およそ大半の若者の発想や行動パターンというのはこういったものだと思うし、実際ベクトルは真逆だが、かつての私にも相通じるものがそこここに見受けられる。つまり、彼女という個人、そしてその周囲の在り方というのはそれ自体は決して革新的なものではなく、むしろ古今東西の歴史においてミクロでもマクロでもあらゆる局面で生まれ繰り返されてきたことだ。

たしかに同世代の中では相当に経歴にも能力にも人脈にも恵まれ実績もあるとはいえ、それでも彼女は実社会から見れば極めて限られたフィールドの中での成功しか経験していない。しかし、だからこそ彼女に対してはそこらの凡俗な「大人」の通りいっぺんの言葉などは何の効果もないのだ。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言うが、たとえいかなる賢人であっても実社会での体験に勝る学びというものはないだろう。彼女を真に心底から変えることができるのはひとえに彼女自身が得た実社会での経験のみだ。そこで身を持っておのれの無力、卑小、凡俗浅慮ぶりを思い知らされ、一敗地に塗れ完膚なきまでに打ちのめされ、恥辱と後悔に胸を掻きむしりのたうち回るに至ってからが、本当の社会での勝負どころでありそして人生の始まりなのだ。そして、その過程において味わった大いなる挫折、失意、絶望こそがどんな賛同や応援の言葉よりも彼女にとって何よりもかけがえのない財産になるだろう、ということだけは断言できるし、彼女はそれらを乗り越えて何度でも立ち上がっていけるだけの精神力と体力を備えているとは思われるのだ。……というような高説を、現にまさに一敗どころか常敗で立ち上がるどころか首も動かす気力も無いままに、そのままずるずる沼のどん底に沈みっぱなしの人生を送っているような大人が言ったところで、やっぱり説得力はこれっぽっちもないな……。

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蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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