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(更新:2023年9月9日)

【時事】SMAP解散に寄せて —そう簡単には「終われ」ない—

【速報】SMAP12/31解散へ!メンバーコメント&関連リンクまとめ – とまじぃさんち 【速報】SMAP12/31解散へ!メンバーコメント&関連リンクまとめ - とまじぃさんち

14日の未明に飛び込んできた「SMAP解散」のニュース、私は起き抜けに知って眠気がいっぺんに吹っ飛んだ。先日の天皇陛下の「お気持ち」表明に次いで、いずれ平成という時代の節目を象徴する出来事のひとつになるのだろう。私などは特に熱心なファンではないが、それでも自分の十代そこいらのころからすでに数々の斬新なパフォーマンスを成し遂げ、数々の記録を打ち立ててきた同世代の才能あふれるエンターティナーそしてアイドルとして、多かれ少なかれ好感や畏敬のようなものを抱いてきた。コンサートにも一度行ったことがあるが、他のジャニースアイドルやアーティストを凌駕する、その反則的なまでのスタイリッシュな豪華さと完成度の高さに呆然としたものだ。

うちの妹などはSMAPがデビュー間もないころ、遊園地やショッピングセンターでのイベント周りをしていた時分からの熱心なファンだったもので、甥っ子と姪っ子の胎教と言えばもちろんSMAPのベストアルバムであり、当然例年のコンサートにも参戦し数々のエポックとなるアクシデントも見守ってきたわけで、それにまつわるネタが色々とあるので追々書いてみようかな…と思っていたうちにこの時を迎えてしまった。さすがに気掛かりだったもので連絡を取ったところ「つい昨日までSMAPが終わるなんて考えてもいなかった」「こんな終わり方になるなんて想像もしていなかった」とのコメントが返ってきた。実際、ファンの間では発表時期の微妙さそして絶妙さも含めて疑いや憶測も多々あるようだが、それでも内心では大半のファンが薄々このブラックデーを覚悟していたのではないだろうか。かつて1970年4月10日までの世界中のビートルズファンがそうであったように……。

SMAPの特筆すべきところはすでにだいぶ以前から指摘され続けているが、彼らが日本の芸能界そしてポピュラー文化において一時代を築いたのみならず、時代そして世代の象徴としての役割を一身に、それも多かれ少なかれ自覚的に引き受け演じきり続けたところにあるだろう。具体的に言えば平成というバブル崩壊後の衰退端緒の空気、そしてちょうどその時期に青春の盛りと働き盛りを迎えてしまったいわゆる団塊ジュニア世代の感性である。

とりわけ90年代の世相、たとえば線香花火が燃え尽きる前に一瞬ぽっと輝きを増すような、冷めかけた溶岩がその割れ目からいまだ煮えたぎった中身をこぼれ出しているような、確実に押し寄せる衰亡の予感と焦燥を抱え、そして実際に幾度となく直面しつつも、それでもかつての華やかさの余光と自身の若さの勢いにもよる驕慢なまでの明るさと自負。すべてが相対化されメタ視点で処理されて語られ、その一方で普遍的な価値が求められ根源的な希望と欲望が肯定されつつあった時代。こうした時代と彼らの上昇期、全盛期は重なっていた。そしてそうした状況においてまさに普遍的な希望と価値を物語り広範な支持を得る一方で、当時の同世代たちの理想や感情も体現していた。とにかく数だけは無駄に多いこの世代の共感を根強く集めた彼らの勢いは2000年代に入ってもしばらく続いていたわけだが、2010年代に至り、もはや社会全体の没落振りが目をそらせないほどになり、そしてこの世代が不惑を迎え所帯を抱え、あるいは所帯を持てずにひとり不安定な就職状況の中で将来に少なからぬ不安をさまざまに抱いていたところへ、ついにこの2016年8月14日を迎えてしまったわけだ。

しかし、いかに高名なグループにせよ個人にせよ、VJTCHそれこそ物語や伝説のように美しい、あるいは劇的な「終わり」というものはめったに迎えられるものではない。かのビートルズにしても解散前後のビジネス上や人間関係の軋轢の泥沼ぶりは以前の団結や信頼が非常に強固だっただけに(何しろSMAPメンバーと同じぐらいの年頃から付き合いが始まっている)より深刻で痛ましいもので、その陰鬱な雰囲気の一端は映画『Let it be』からもうかがえるのだが、実際そのオフレコでは最近の「スマスマ」の収録スタジオとはおそらく比較にならないほどの緊張があったようだ(そのせいか『Let it be』は目下リマスター再版の予定もない)。そして終幕はポール・マッカートニーがタブロイド紙に送りつけたインタビュー形式の文書によってあっけなく訪れ、続いてメンバー同士での訴訟沙汰も起こり、それらによって生じた数々のトラウマは解散後も彼らの中で長年に渡って公私ともに少なからぬ影を落とし続けたのだ。

ビートルズの解散問題 – Wikipedia ビートルズの解散問題 - Wikipedia

ビートルズはその輝かしい足跡と偉大な業績とは裏腹に、グループとしての公式な活動期間は8年に満たず、その終わりも決して美しいとは言えないものだった。だが、メンバーたちは皆それぞれに自らが創り出した巨大な伝説のプレッシャーと格闘しながら、その後のはるかに長いソロ・アーティストとしての活動でも実に華々しい実績や鮮烈なエピソードを残している。それは元メンバーとの葛藤そして愛憎という局面においてでもである。そして、とりわけポールとリンゴは70をとうに過ぎた今でも新作を発表し世界中を飛び回り第一線で活躍しつづけている。

むしろ「終わった」後の時間をどう生きるかで、その前の出来事や為し得たことの価値や意味も変わってくるのではないか。SMAPのメンバーにしても、SMAPという現象なり役割なりは終わってしまっても、彼らの芸能人そして公人としてのキャリア、そして一個人としての人生はずっと続いていくのだ。そして、ひとつの時代、盛りの頃はすでに過ぎ去ったとしても、それぞれの人生も世界もその死の時までは確固として存在し続けるのだし、また、そう簡単に「終わる」わけにはいかないのである。それはもちろん彼らを愛し支え、励まし励まされ続けた各地のファンも、そしてこの私にしても同じことなのである。「世界にひとつだけの花」はたとえ盛りを過ぎ散ったとしても、それぞれの花が成した実は結び、種は地に落ちて再び新たな花を咲かせていくのだ。やがて、我が甥っ子や姪っ子たちもその母たちとともにSMAPのメドレーをともに聴き歌う時が訪れることだろう。

 

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蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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