3月 272018
 
ラザロの復活 ジャン=バティスト・ジューブネー
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※最終回のネタバレを含みます。

 

僕はくたばりたくない まんまるに見せた月に
尖った面が隠されていないかを 知ることなしには
太陽が冷たいかも 四季が 本当に四つしかないのか
大通りで ドレスを着てみることも 試してみないで
マンホールの中を 覗き込むこともなく
僕のあそこを おかしな界隈に突っ込むこともなく
僕はおさらばしたくない
そこで、うつされる 数々の業病 悪病をしることもなく

「僕はくたばりたくない」ボリス・ヴィアン (訳・永瀧達治)

 

ついに先日最終回を迎えたアニメ『おそ松さん』2期である。すでにご視聴の諸兄諸姉による感想や考察などが多数上がっており、現在のところ私が目にしたかぎりでは、この半年あるいは1期放映時からこの『おそ松さん』彼ら六つ子たちを見守ってきたファンの願いと期待に大いに応えてくれたものであり、もちろんこの私もそれらのほぼ全てにに心底から大いに賛同し共感するものである。

以前、ちょうど一昨年まえの『おそ松さん』1期最終回については以下のような記事を書いたのだが、全体に失望とは言わないまでもさまざまな困惑と欠落感を伴ったネガティヴなものであった。

しかし、今回2期の最終回は、以前の1期最終回における彼ら六つ子たちによる「現実」への適応の試みからの唐突かつ壮大なちゃぶ台返しそして(キャラクターとしての)死という展開とモチーフをまったくなぞりながらも、実はそのベクトルも結論もまったく真逆のものである。以前1期の『センバツ』というセレモニーはアニメ『おそ松さん』という世界の創造者たち(そしてその視聴者であるわれわれ)の要請による文字通りの「選抜」であり、そのためにはそれまでに彼らが曲がりなりにも求めて築いてきた愛や絆を断ち切り犠牲にし自らも殉じていちどその魂を捧げなければならないものだった。しかし今回の彼ら六つ子の「地獄」からの帰還そして「死」からの復活というのは、前回24話を含めてこれまでの彼らが過ごし体験してきた1期からの歴史をも踏まえたうえで、そしてまさしく彼ら自身のみずからの確固たる意志による「選択」によってはじめて果たされたのだ。

思えば『おそ松さん』の2期を通じた各エピソードは明らかに1期とは異なるトーンで作られており、その違和感を指摘する声は多かった。ご存じの通り、1期の『おそ松さん』は松野家の六つ子とその周辺という小世界における関係性および個性の有り様をリアルに繊細に描いたことで視聴者の共感を呼び社会現象とも言われるほどの人気を博したが、2期ではその1期までに描かれ印象づけられ、そして人気を集めた六つ子たちの個性や関係性をむしろ壊し否定していくような展開が多々あったからだ。しかし、今に振り返ればそれらの展開というのはまさにこの最終回において彼らが選択した行動に繫がっていくようなもので、むしろこれまでの各場面各エピソードでの彼らのそれぞれの「選択」が密かに積み重ねられてきたうえでの帰結とも言える。

2期序盤に六つ子たちはまず自分たちが承認と人気を得るために必死で獲得してきた個性を洗い流され否定されたりあまつさえ合成されたりする一方で、あまり接点の無かった兄弟同士がおのれの内心を吐露し合ったり協力し合ったりする。そして回を追う毎に1期以前の彼らからは明らかに意外な行動や「選択」をするものが出てくる。1期では兄弟に過剰に同調することで自らの心身の安定を得ていた一松が今度は自らの平穏のためにひとり奮闘し兄弟たちへのイニシアティブを握る。十四松は1期で悲恋?を演じた「彼女」と再会しその再生を見届ける一方でみずからは「イルカ」としての生き様を選択し件の彼女とは決別し海原へ去って行く。我らが次男・カラ松は「優しい自分」とプライドを手放す代償に兄弟間のヒエラルキーそのものを真っ向から拒絶し、以降はさらに「イタい」言動が減り兄弟たちや両親にはより率直な形で関わり自己主張するようになる。チョロ松は1期での最大のおのれの個性であり役割であったはずのツッコミが減る一方で事もあろうに茶髪にイメチェンして兄弟たちを恐慌に陥れる。トド松は「末弟」という立場から放逐されては奪還を目指しておのが家族に銃口を向けたりしながら時には自ら投げ出したりもする。チビ太は六つ子への復讐を通じておでん以外のアイデンティティを主張し、トト子は「現実」のアイドルである橋本にゃーとファイトを繰り広げ外界からのゲストに動揺しながらも、これまた六つ子どものアイドルそして同志としての矜持をあらためて示す。六つ子の両親は存在感も出番も増し世間並みに夫婦仲や老後に悩んだり、ニートな息子たちを持て余し悩みつつも結局受け入れたりする。ダヨーンはもう一人のおのれならざる自分に邂逅し動揺ししかしその事態を受容し、そしてイヤミは再び家を取り戻したりやっぱりホームレスに戻ったり主役に返り咲いたりしつつも自らの人気と今後の身の振り方に悩んだりする。つまりは皆がそれぞれ『おそ松さん』1期という世界において与えられ認識され期待されてきた役回りなりキャラクターなりを自ら顧みては疑ったり再び確認し直したり、あるいは自分の望むように修正したり時には拒否するようになったのだ。

そして24話では六つ子たちとりわけ長男・おそ松にに最大の「選択」が迫られる。ここに至るまでにはすでに彼ら六つ子には1期以上によりシリアスに明解な形でさまざまに(われわれの住む側の)現実の脅威が迫っていたのだが、肉親それも父親の病気というもっとも逃れようのない「現実」がついに彼らに突きつけられるのである。ここに及んで六つ子たちは『おそ松さん』というギャグアニメのキャラクターにして主人公としての存在意義を捨てイヤミをはじめ原作『おそ松くん』いらいの仲間たちと決別し、自分たちのかけがえのない生みの親である松野松造と松代の愛する息子として、そしてもっぱらひとりの生身の人間として大人として「現実」の世界を生きていくことを受け入れたように見える。しかし、ひとりおそ松はトト子にだけ密かにおのれの迷いと不安を吐露する。『自分のことは自分で決めたい』と。そして、これこそがまさに『おそ松さん』2期という物語すべてを通じてひそかに、しかし確固として語られてきたテーマであったのだ。本来は彼らは1期の「センバツ」においていちど「選抜」されながらも結局は敗北して放逐された身の上である。しかしながら、こうして2期に恵まれて華々しく?主人公として迎えられ再び半年の時を存在することができたのもまたその世界の意志(むろんわれわれ視聴者を含む)による「選抜」によるものであり、そしてこうしてまた再び「現実」の側に投げ込まれつつあるのも、またその世界の外の思惑なのである。それこそがまさにおそ松の「もやもや」の元凶であり、そして続く25話でのおそ松たち六つ子の「地獄」めぐりはそれらに対する壮大な彼らなりの異議申し立てでありそして拒絶である。そして、その他ならぬ彼らの意志によってついに世界への亀裂が生じ、とうとう彼らは『おそ松さん』というアニメ作品であり世界の開闢いらいはじめて、その世界そして彼ら全ての創造神であり最高神である赤塚不二夫と邂逅を果たすのだ!

しかし、実際に彼ら六つ子を救い蘇らせる助けを果たしたのはその創造神の慈悲ではなく、チビ太トト子をはじめとする仲間たちであり、そして彼らが『おそ松さん』という世界で出逢った人々の愛であり絆であった。かつての「センバツ」ではむしろ彼らが「選抜」され存在し続けるために犠牲にしなければならなかったものが、今回ではまさに彼らが蘇るための原動力となるのである。今回の地獄のみならず、彼らと彼らの住む世界からは疎外され不毛であり、彼ら自身もそう思い込んでいたものを、彼らはついにそれとは気付かずに生み出し育み、そして気づかぬままに与え与えられていたのだ。しかもこの「地獄」にいた者たちの大半は、あのF6も含めてかつて『おそ松さん』世界からいっときのゲストキャラとして「選抜」され召喚されながらもその役目を終えると放置されていた人々である。そんな彼らはまさにその世界(われわれ視聴者も含めた)から「要らない」存在として疎外されることへの異議申し立てのために六つ子とともに闘い、彼らを再び『おそ松さん』世界の表舞台へ送り出す。こうした彼ら自らの意志による「選択」と彼らとともに生き、さまざまに関わった存在たちの「愛」による復活と再生……これらこそが実は『おそ松さん』とその世界で必死に足掻き生きてきた彼らをこれまた多大な共感を持って見守ってきたわれわれ視聴者の多くが切望していた展開であり、その意味においてこれ以上ないほどの理想のラストなのだ。

 

しかし、これらの結論を踏まえた上で、それでもこの私は、その理想の実現に対する喜びと安堵以上に形容しがたい不安と不穏を抑えきれないのだ。24話の結末そしてこの最終話の冒頭、おそ松が弟たちを集めて伝えようとした決心と計画は、ついにおのが弟たちにもわれわれ視聴者にも伝えられることなく忘れ去られてしまった。それは、ふたたび『おそ松さん』世界の中心で(童貞を捨てるべく)生きていくことを決意した彼らにとっては確かに「クソどうでもいい」ことだったのかもしれない。しかし、もっぱら他ならぬこの現実世界のそれも底辺や周縁で「要らない」もしくは「居ても居なくてもどうでもいい」存在として、それでの何らかのささやかな妥協なり選択なり愛のためにしがみついて日々を生きていかなければならない我々にとっては、やはり、おそ松がたとえ一時でもひとりの生身の無力で平凡な青年として、この我々と同じくこの現実世界においてその葛藤のなかで考え出し決意したものには、彼らが地獄のただ中において選んだ選択と決意においても決して劣らない価値があると信じてやまないのだ。そして、ゆえに私は、その私と同じくひとりの生身の人間としてのおそ松の決意なりをぜひ聞いてみたかったと思うが、おそらくそれは『おそ松さん』という世界がこれからも続き、彼らがその世界で生きることを選択し、そして何よりわれわれ自身がそれを望んでいる以上は永久に封印されるのだろう。

そしてその封印こそは、まさに我々と彼ら六つ子たち『おそ松さん』世界の人々との決して超えがたい断絶をしめすものだ。我々は彼らのように、赤塚不二夫という自らもギャグという世界の神に選ばれ殉じた創造の神に嘉された不老不死の存在ではない。何度も宇宙の果てに放り出され飛行機から叩き落とされ追突され、そして文字通り地獄に落とされ責め苦を受けてもひとえにおのれの意志と「愛」の力によって繰り返し蘇る存在ではない。存在するだけでひたすら老いて朽ちていき、ただ一度しか死ぬことができずその後はただ腐敗し骸となり骨になり灰になりただの無機物と化していくだけの肉体しか持たない。しかし、一方ではあの六つ子たちはやはり間違いなく現実世界を生きて時に病に蝕まれそして老いていく、松野松造と松代という生身の人間であり男女の血を受けた子供たちである。彼らは確かに自分たちの意志と力でもって愛する両親の元に帰還したのだが、その彼らの意志の原動力が「愛」であり、そして最大の目的が「童貞を捨てること」であり、そしてその「童貞を捨てる」という行為が目的や成果そのものではなく、その先にあるものに到達するための過程のひとつにすぎず、そしてそれがまさに自分たちを産み落とし育みそして蘇らせたものと同質であることを悟ったとき、彼らはまさにその不死身の力を失うか、あるいは自ら捨て去るのではないだろうか? そしてもちろんその時こそが、真の『おそ松さん』世界の終焉なのだ。そして、彼らがその過程に到達するための変化、成長というべきものが明らかに不可逆的になされていることは、まさにこの『おそ松さん』2期全体において証明されており、そしてそれはおそらくこの『おそ松さん』制作陣の変化そして意志とも同調するものだ。

しかし、やはりこの『おそ松さん』世界が(我々の願い通りに)続いて行くということは、彼らが永久にカースト最底辺童貞クソニートとして、その世界のほかには愛を知ることなくひたすら永遠にギャグのための戦神として殉じていくことを強いるもので、したがって生身のか弱い魂と肉体と一回きりの短い命しか持たない人間である我々とは決して交わることもなく同じ世界で語り合うこともできないままだ。ピノッキオは愛を知り魂を手に入れ人間社会に迎えられる代償にその命も肉体も一度きりの儚いものとなったが、カラピノは我々と同じ魂と欲望を持ちながら、不死身の体と力と栄光と引き換えに永遠に愛を知らず孤独なままで、しかし我々のうちの誰もそれに手を差し伸べることはできないのだ。

したがって、いつの日か『おそ松さん』の彼らがわれわれと同じ世界で我々と同じものとして生きて老いていく代償に彼らが望むとおりの「愛」を得るか、こちらの我々とは断絶したままに『おそ松さん』という世界の永劫の繁栄と存続のため(しかしそれはやはり我々の望みでもあるのだ……)に童貞クソニートというスティグマと枷を負ったまま永遠の命と日常を繰り返していくのか。いずれにせよ、それらの選択はもっぱら彼らの意志と愛によって任され成されるべきもので、そしてひとえに彼ら自身の選択であるかぎりは、こちらの現実で生きるわれわれ『おそ松さん』視聴者はそれを自らの心と魂を強く持って受け入れ、そしてこの自分たちの生きるささやかな現実世界を彼らがそうしたのと同じく、強く確かな意志と愛によって選択を繰り返しながら生きて全うしなければならないのだ。なぜなら、彼らとりわけ赤塚区というアジールでもあり現実そのものでもある街に生きるあの松野家の青年たち、紛う方なき主人公にして長男・おそ松を筆頭とした六つ子、三男・チョロ松、四男・一松、五男・十四松、末弟・トド松、そして我らが次男・カラ松が持っている心と魂と血と肉体とは、やはりこの現実世界に生きるわれわれとまったく同じものであり、まさにその一事をもって我々は彼らを愛し見守り続けてきたのであり、そしてそんな私たちがいちばんに切に願うことは、まさに彼らを蘇らせたあの世界を彼らとともに生きた人々とまったく同じものだから。

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