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(更新:2023年9月9日)

【私事・私感】最悪の「エウレカ」—我がウィタ・セクスアリス—

人はいかにしてセックスを知るのか|Tamaka Ogawa|note 人はいかにしてセックスを知るのか|Tamaka Ogawa|note

大人はみんな、多かれ少なかれその衝撃を乗り越えて、今こうして暮らしている。いったいいつですか。あなたがセックスの仕組みを知ったのは。初体験よりも、その話を私は皆さんに聞いてみたい。

私がそれを知ったのは、中学二年のちょうど今ごろ、季節の変わり目の雨がちの時期だったと思う。その日の学校でも、私はクラス内で数人に絡まれて羽交い締めにされ、下品な侮蔑の言葉を吐かれながら髪を引っ張られたり腕をつねられたりしていた。そして、いつも通りにエスカレートして胸を揉まれたり、スカートの中に手を突っ込まれたりするに及んで、私はさらに声の限りに叫んで抵抗を激しくしたが、彼らはいつも通りにさらに面白がっただけだった。周りの皆はいつも通り半笑いで眺めているか、我関せずでめいめいの仕事やら雑談やらに興じていた。

そして彼らはいきなり手を離し、その反動で倒れてへたり込んだ私に向かって笑いながら言った。
「なに嫌がってんの? ぶりっ子してんじゃねーよ!」
「てか、ほんとは喜んでたくせに、変態! キ××イ!!」
「オトナになったら、これくらいのことは皆やるんだよ」

これらは大体いつも通りの内容であり展開だった。私はいつも通りに躍起になって反論した。——いつもいつも失礼なことを言ったりやったりして人を傷つけるのは止めて、私はあんた達とは違う、もし誰かを好きになってもそういう下品な、いやらしいことは絶対にしない、一緒にしないでくれ——というようなことを。彼らはいつも通りますます勢いづいて囃し立て、そのうちに、その中の一人がさらにニヤけながらクリティカルな科白を吐き出した。

「なに言ってんの? あんたの母親と父親がチ××マ××いじくり合って、ズッコンバッコンヤッたから、あんたが生まれたんだよ〜!」

その瞬間、私の脳内はたちまち真っ白になり、周囲は音を失い、文字通り全身の血が下がったような気がした。かと思うとその直後に文字通りに頭と顔に一気に血が上り、目まいと吐き気を感じるほどだった。その直後、私は己の脳天にも突き抜けるような声で矢継ぎ早に喚き立てていた。

「嘘だー!! 人を馬鹿にするのも、もういい加減にしてよ!!」
「うちの親がそんなことするはずないでしょ!! 人の家族を侮辱するのは止めてー!!」
「私はそんなの絶対に信じない! 絶対にやらない! 私はそこまで駄目人間じゃない! お前らと一緒にするなー!!」

おそらく、教室中、下手をしたら教室外にも聞こえるような金切り声だったと思う。しかし、その時の私は本気で全身全霊の力を振り絞って命がけで叫んでいた。それ以前から、彼らからはいわゆるエロ本、全裸の男女が絡み合ったり、あるいは男が嫌がる女をいじめているようなものを無理やり見せられたりしていた。今にして思えばそれほど過激な部類ではなかったのだろうが、当時の私には酷く衝撃的な代物で、「ああ、世の中にはこんな嫌らしい、醜いことを面白がってやる大人がいるんだ。そして、それをこうして面白がって見たり、無理やり見せたがったりする人間がいるんだ……私は絶対にこんなことはしたくないし、近づきたくもない」と堅く決意していた。

そのような行為と、少なくとも家庭においては世間並みの潔癖さと良識に従う振る舞いをしていた我が両親と結びつけることなど、とうてい想像すら及ばないものだったのだ。それを、仮にも人の親に対して、そのような世にもおぞましい所行をしでかすような輩に貶め、しかも、そういう行為の果てに自分の存在が生じたなどというデタラメな話をでっち上げてまで、この私はおろか、その家族まで心底蔑んで嘲笑い、踏みにじらなければ気が済まないというのか! いくらなんでも、そこまでの仕打ちには到底耐えられないし、断じて許してはいけない……!

「おいおい、コイツ、発狂したぜ!!」「バッカじゃね!?」彼らはますます愉快そうにはしゃぎ立て、教室内の皆も集まってきて囃し立てたり、ところどころ固まってはひそひそ笑い合っていた……ように感じる。私といえば、それから先はなにを口走っていたかは覚えていないが、彼らに向かって有らん限りの勢いで腕を振り回しながら飛び掛かっていったのは確かだ。そして、案の定あっさり返り討ちに遭い、床に突き倒され寄って集って押さえつけられ、いつも通りに身体中を踏んづけられたり蹴飛ばされているところへようやく担任が入ってきて、周りは一斉に私から離れた。

私がそれまでの顛末を担任に涙ながらに訴えると、担任は困惑した表情で私を生徒指導室へ連れ出した。そこで私が引き続き彼らから受けた悪行の一部始終、これ以上無いほどの名誉毀損ぶりを必死で伝えたところ、担任はその場にいた別の教師と顔を見合わせて、その後、私に向かって深刻な声色で言い放った。「あなた、ご両親と一度、ちゃんと話し合って、きちんと本当のことを教えてもらいなさい」

……私がどしゃ降りの夕暮れの中、釈然としない気持ちいっぱいで足を引き摺って帰宅すると、担任から連絡を受けた母が憮然とした表情で座っていた。その後、父も交えた家族会議、というか私への繰り言や嘆きじみた説教が夜中まで繰り広げられたのだった。母が私を目の前にして「あなたがここまで幼い世間知らずだったとは思ってなかった……」と涙ぐみながら繰り返し嘆息するのを見て、私はこの両親のために必死で怒り狂ったことが心底空しくなってしまった。いずれにせよ、この時点においても未だ「きちんとした本当のこと」は何ひとつ得ることはできなかった。……結局、精確かつ詳細な性知識はもっぱら図書館にあった専門書や小説、マンガなどから独学で得たのである。

 

こうしたわけで、巡り巡ってその結果、私は立派な腐女子になりましたよ……というわけでは必ずしもないのだが、この件における衝撃というか、ある種のトラウマによる屈託というのは、私の以後の半生での局面において大なり小なりポジティヴとは言えない影響を及ぼしていると信じている。少なくともそういった(被害者)意識のようなものはいまだ拭えないのだ。それもあってか、ごく普通に意中の相手と出会い、好意を充分に確認しあった後でごく自然に結ばれ、そして望んだとおりに妊娠し、満を持して子供を生む……といった、人類間の性愛そして生殖におけるプロセスを当然として受け入れていて、それ以外の状況やパターンは異常かつ忌避されるべきものであって、自分の世界の範疇には起こり得ない、そもそも想像の外である……というような意識、感覚の人たちとは、透明な、しかし分厚い防弾ガラスで隔てられているような、とうてい乗り越えがたい断絶を感じるのだ。

とにかく、学校教育の場での性教育の推進に否定的、消極的な人は未だ多いようだが、私はむしろ早い時期、小学校高学年ぐらいからきっちり精確な知識を誠実に、避妊の仕方も含めてきっちり伝えて仕込んでおくべきだと考える。知識の初体験、とりわけ「性」に関わるそれは、その人のその後の性生活はもちろんのこと、人生そのものも左右しかねないものだからだ。

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蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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