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(更新:2023年9月9日)

【エッセイ】「子供」向けの作品は「大人」しか創ってはいけない

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以上の記事でも取り上げられている『ママがおばけになっちゃった』を一読したところ、私が真っ先に連想したのが赤塚不二夫の名作ギャグマンガ『もーれつア太郎』である。ただし、こちらでは主人公のア太郎は当然ながら小学生以上ですでに稼業の八百屋を父親以上に立派に切り盛りできるくらいの年代だし、なにより即行で死んだはずの父親もストーリーを通して天国と地上を行ったり来たりしながら息子のア太郎を常に見守り(?)続けるという設定である。要は小学校中学年以上向けのナンセンスギャグ作品としてならまだしも、こうした設定で未就学児向けの「感動」絵本として仕立て上げるのは色んな面でかなり無理があるし、実際少なからず違和感や不快感を覚える人も多数生じているというわけだ。

(一方、うちの母親なんぞは『野口英世』の子供向け伝記を私ら子供たちに毎回号泣しながら読み聞かせるような手合いだったので、こうした作品をナイーヴに受け入れてしまうような親を持ってしまった子供たちに対しては心底同情を禁じ得ない)

もーれつア太郎 – Wikipedia もーれつア太郎 - Wikipedia

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問題点はもちろん上掲の記事にもあるとおり「死」それも母親の喪失という子供にとって極めてショッキングな事態が安易に扱われすぎ、ということも大きい。シビアな事態をあえて面白おかしく不条理かつ不謹慎な「ギャグ」として描くことで却ってその事態の残酷さや切なさ等々を際だたせる、という手法は確かにあるが、この作品が対象にしている年代の子供たちにはレベルもハードルもあまりに高すぎるだろう(しかし、親に先立たれた4歳男子が寂しさのあまりその母親の下着を身につける、という発想は児童心理上、実際にありうるのだろうか? それとも作者なりの高度なギャグの一種なのか)。

わざわざ「死」などというシチュエーションを持ち出すまでもなく、ほんらい4歳やそこいらの幼児にとっては、両親とくに母親の存在というのは大切とかありがたいとかいう以前のおのれの世界の絶対者でありすべてなのだ。その存在を喪失する、見捨てられるというのはそれこそおのれの世界の破滅、そして自身の「死」を意味する。この作品を当の作者をはじめ親から読み聞かせられた子供たちが総じて嫌がったり怖がったりして泣いた、というのは、まずそういうおのれの破滅に対する恐怖や絶望を身に迫って想像できたからだろう。先日の北海道男児行方不明事件にもあったように、大人にとってはちょっとした例え話だったり一時の方便のつもりでしたことでも、いまだ経験や知識に乏しく心身ともに保護が不可欠な子供たちにとっては、創造者であり絶対者である親からの真実の言葉であり預言であり、ゆえに真剣に聞き入れ、受け止めてしまう。まして、とうてい自分を遺して先立つ親の苦悩や気遣いを推し量れるような余裕は持ち得ないだろうし、そうした心身の成長段階に至るには未だ早すぎるのだ。

ママがおばけになっちゃった!という本を子供に読み聞かせることのあざとさ、違和感 – momochin141414の日記 ママがおばけになっちゃった!という本を子供に読み聞かせることのあざとさ、違和感 - momochin141414の日記

しかし、以上の記事にもあるとおり、この作品が子供のためというより親とりわけ母親自身の慰撫のためであり、作者の意図はどうあれ実際として主にそのような目的で消費されている、というのは全くその通りだろう。ただし、目下これだけ多くの「母親」たちに好意的に受け入れられているということは、裏を返せばそれだけ多くの「母親」たちがとくに育児に対して報われていない、おのれの献身や苦労に対して当の子供たちや家族からの労いや理解があまりにも足りていない、と感じているということでは。とはいえ、そんな母親たちが真にそうした理解や献身、そして自立を求める相手というのは、当然ながら幼い我が子のほうではなく、ともにその幼子を守り育てていく同志である夫であり(義理の)両親であり、あるいは兄弟姉妹であり立場を同じくする友人たちであり先輩であり、とにかく自分と同等以上の「大人」であるべきで、しかし現状としては自分の周囲にそうした存在が居ない、思うように恵まれていない、というのが少なからぬリアルな母親たちの実情なのだろう。

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子どもは愛を注入してあげないといけない生き物なんです。0〜6歳の間にお母さんの愛が入ってないと思春期でグレてしまう。僕がそうだったからよく分かる(笑)。だから小さいうちに、ちゃんと向き合ってほしいんです。

ちなみに、こちらの記事および現時点で見聞した情報などから参照したうえで私的に言わせてもらえば、どうもこの『ママがおばけになっちゃった』には、むしろ作者ののぶみ氏自身の少年時代のトラウマ、内心で秘めてきた母親への鬱屈がにじみ出ているように思える。この作者の心情そして感情移入の対象というのは、ほんらい母親に先立たれて泣きじゃくる幼い息子に対しその祖母とともに包み込み支え励ましの言葉を掛け、そして遺してきた我が子を案じ迷い出てきた妻に対して「俺が代わりにこの子を立派に育てるから安心しろ」とか「今まで家事も育児も頑張ってくれてありがとう」とか感謝と労いの言葉を贈る立場として登場すべきはずの主人公の父親ではなく、祖母と一緒になって亡き母親の料理の腕やら見た目年齢やらを腐す現4歳の「かんたろう」少年なのである。おそらく作者のなかでは少年時代に自分がいじめられる原因となった命名なども含めて、自身の母親の態度や対応に対していまだ愛憎半ばする葛藤があり、そして親を失った4歳児レベルの愛情飢餓と承認欲求に苛まれているのだ。もっとも、ひとえにその欠落感やルサンチマンをバネにして現在の売れっ子絵本作家としての地位を勝ち得たのだろうが。

結局、本当に「子供」たちを導き守りたいと考え、そしてそのための作品を創り世に広めたいと思うなら、まずは他ならぬ自分が心身ともに「大人」にならなければならない、少なくともおのれの「子供」たち、そしてそれと同等たる自身の創作物においてはそういう気構え心構えで当たらなければならない、ということだ。自身の内なる「子供」の姿をありのままにさらけ出し、その幼児性を無自覚にダダ漏れしても許される、それでも評価されるというのは、むしろ心身ともに成熟した「大人」向けの作品とその受け手に対してのみ通用することなのである。

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蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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