以前、こちらの記事の紹介で、大物漫画家・弘兼憲史(もちろん『島耕作シリーズ』の作者)と夭折の天才漫画家・山田花子(当時は『ヤングマガジン』でデビューしたばかりの新人)の対談(?)を弘兼氏の側から描いた短編を読むことができた。
一方、以上の一件を山田花子側から描いた(に違いない)のが以下の作品である(青林工藝舎『からっぽの世界』収録)。
(´-`).。oO(俗に言う「社交的な人」「世慣れた人」ほど、時と相手によってはこういうとんでもなく恐ろしい無神経発言するよね……)
ご覧のとおり、人物の性別や服装が変えてあるなど「フィクション」としての体裁が施されているものの(弘兼氏の漫画もむろん事実そのままではないだろうし)、当事者それぞれの視点によって同じ出来事でも認識や解釈、描写がかくも変わる、という実に端的な例であるが、私はこの山田の漫画の方が限りなく真実に近い、と確信している。弘兼氏にしてみればやたら緊張している新人を何とかリラックスさせようとあえて「フランク」な態度で働きかけようとしていたのだろうが、山田花子の側に立ってみれば、ただでさえ内向的で気が弱く話し下手な二十歳ちょい過ぎの若者、そして新人が、年齢も業界内のキャリアもはるか上のベテランの大物を目の当たりにすれば少なからず固くなって言動もぎこちなくなるだろうし(緊張している相手に「固くなるな」「リラックスしてよ」とか言うのは鬱の人に「頑張れ」というのと同じくらい逆効果だ)、そのうえズゲズケ立ち入ったところまで聞かれたら警戒して萎縮するのもやむを得ないのでは。
せめて双方に共通の話題が見出せれば会話の進展も有り得たのだろうが、このお二人の場合、まず経歴を見ても作風からしても、どこから考えてどう見ても相通じる要素は一片たりも見当たらないのである。それどころか、およそ全人類の中でこれほど生物としての種類も属性も最もかけ離れたまったく相容れない存在同士は思いつかない、と言えるほどである。M78星人とバルタン星人の方がまだ意志の疎通が成り立つのではないかとまで思える。ただただ、お互いにとっては不幸極まりない遭遇、事故のようなものとしか言いようがない。全ては、よりによってこの二人をセッティングしてしまった企画側の責任である。
しかし、かくいう私も昔、このようなシチュエーションを少なからず経験して(させられて)おり、実際にまあ散々と一方的に大概なことを一度ならず言われたりして、未だに思い出す度に心外で腹立たしいこと頻りなのだ。山田花子作品を読む度に、描いた覚えの無い我が半生の自叙伝を見ているような気分になるのである。
※現在(2023年)はゴマブックス株式会社より出版されているようです。
追記:参考意見