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(更新:2015年6月5日)

【エッセイ】ルミネのCM『Special Movie』シリーズへの批判について—炙り出された「リアル」と「業」—

既にご周知の通り、インターネットCMとして公開されるなり多くの女性たちの怒りを買い(私も含めて)、大バッシング(私も含めて)を食らって直ちに公開取りやめになってしまった例のルミネのCMについてだが、おおよその内容と状況は以下のまとめを見ていただくとして、

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冷静に振り返ってみると、CMの意図そのものは決してそれほど非難するほどのものではなかったような気がする。このCMそのものや一連の騒動に関して既にさまざまな批評やコメントが出ているが、私が最も腑に落ちたのが以下の記事であった。

ルミネの広告のストーリーは諧謔であること。またもう一つの炎上の件 – エレニの日記 ルミネの広告のストーリーは諧謔であること。またもう一つの炎上の件 - エレニの日記 このエントリーをはてなブックマークに追加
2015/3/22現在 記事の追記&修正あり)

[browser-shot url=”http://d.hatena.ne.jp/Ereni/20150321/p1″ width=”300″ height=”200″ target=”_blank”]

ルミネは動画を消してしまったし、この後どういう情報が出てきたか追っていないんだけど、結論から言うとストーリーの諧謔性を理解しない構成のせいで誤解が誤解を呼んでしまったように見える。
この方の書いてるように構成は明らかにチグハグで、最初のシーンの「無駄に上から目線で、身に構ってるけど他人をどうこう言える程ではない」男の登場が示唆するストーリーと、「変わりたい? 変わらなきゃ」の煽りが噛み合っていない。

沢山の人が指摘している通り、煽った演出が酷いことになっているんだけど、それもストーリーの諧謔と反作用を起こしたゆえに余計あからさまにみえてしまったんだろうなっていう。

ルミネCMの制作者は女 ルミネCMの制作者は女 このエントリーをはてなブックマークに追加

セクハラとしてはかなりデンジャラスな領域に踏み込んでいるのだが、現実世界にこういうことをやるやつは少なからずいて、そのために、メガネが「あえて作ったキャラ」なのか「制作者の分身」なのかいまいちはっきりしない。

以上の記事で演出の点から詳細に分析されているとおり、おそらくこのCMの制作サイドはあくまで主人公の女性に近い視点と立場にあり、しかしその意図が演出と噛み合わず、その意図が伝わる以前に演出の時点で反感を買ってしまった……というところだろう。そして受け手の側も、ちょうど昨年放映のドラマ『明日、ママがいない』にもあったように、「作中人物の行為そのものへの反感」「作者そのものへの意図や思想への批判」がごっちゃになってしまったところはある(私も含めて)。

振り返ってみれば、このCMシリーズでは本来は第一話のラストと第二話に出てくるイケメン後輩と主人公の関係が元からメインで、件のメガネの男性上司にせよ巻髪の後輩女子にせよ、あくまでそのストーリー上の前振りとしての役割に過ぎなかったのではないかと。ただ主人公をとりまく現実の一つ、そして主人公のその世界での立ち位置を端的に示す役柄としての存在以上ではなかったのでは。しかし、その描き方がなまじ絶妙でリアルだったがゆえに、そのリアルな感触が多くの女性視聴者(私も含めて)が多かれ少なかれ抱えているトラウマを刺激して、そちらのみが悪い意味で目立って強烈に印象づけられてしまったのだ。

よく考えてみれば、実は先の二人とも主人公を否定するような言動は一つも取っていないわけで、メガネ上司は主人公には決してはむしろ一貫して好意的ですらあり(もちろん、ああいう言動を「悪気なく」やってしまう思考に深刻なセクハラの萌芽があるわけだが)、巻髪の後輩にしても主人公と特に険悪な雰囲気は見られないし、ましてことさらに敵対するような印象ではない。むしろ、ここで主人公がこの二人(に象徴される価値観)に反発したり抵抗するどころか、ひとり自らコンプレックスを感じて焦ってしまう、というところがCMの第一話の胆であり、しかし、多くの女性視聴者(私も含めて)の失望と怒りを買ってしまったところなわけだ

もちろん、この主人公も含めて世の女性がみな「職場の華」になりたいと望んでいるわけではないし、まして先のメガネ上司のような男性の「需要」に応えたいとも考えていないのだが、しかし、それでも現実にはこのメガネ上司のような存在や価値観は厳然として幅を利かせており、そのプレッシャーからは逃れることは容易ではないし、何より当の女性たちがその価値観を無意識に受容して内面化してしまっているのだ。

そして、その現実にたとえどれだけ違和感や反発を感じていたとしても、このCMの第二話にあるように、見るからに気の好さそうな若いイケメン(このイケメンが特に目立ってセンスが良いとか『イケてる』とかいう設定ではなく、地味でオタク気味で微妙に残念ぽいのがまた妙にリアルなのだが(^_^;))にでも「女」として認められ面と向かって好意を寄せられたら、やはり悪い気はしないどころか舞い上がってしまう……というのもまた多くの女性の本音だったりする。しかし、この主人公がその根深いコンプレックスの故か、これまた一人勝手に自虐に走ってしまうところもまた嫌になるほどリアルで、身につまされた(私は)。その賛辞を受け入れてしまったら、今まで自分を追い詰め苦しめてきたものを認めてしまうことになる、というジレンマと、何よりその喜びや期待が裏切られてしまった時には、そのプライドと「女」としての自分が同時に傷つけられてしまう、という不安。

結局、世間での「女」としての「需要」、自意識に最も囚われてしまっているのは他ならぬこの主人公、そしてそんな主人公に感情移入して怒りや苛立ちを抱いてしまった(私も含めた)女性たち自身だった、という結論なのかもしれない(それがまさに俗に言う『こじらせ女子』とかいうやつなのか……)。実はこのストーリーのややこしいところは、先ほどのメガネ上司もイケメン後輩も最初から主人公の能力や資質や嗜好はあらかじめきちんと評価して好ましく見ている、という点で、主人公も己の「中身」にはそれなりに自負を持っているのだが、それが自分の「女」としての自信には結びついていない、結びつけることのできないような現実があり、かといってその現実も、「女」としての自分も否定しきることも出来ない……という、現実の女の置かれた立場や業を自覚して踏まえた上で、そしてまさにそういう現実や業を乗り越えていく価値観を提示していく、というのがルミネ側の意図だったのかもしれない……という見方はやっぱり好意的すぎるだろうか。

しかし、ファッション、身を装うという行為自体が「他者」の視線を抜きにしては成り立たないものであり、その「他者」には抜きがたく異性のそれも含まれているのである。そして、ルミネはまさしくその「ファッション」を原資にして生計を営んでいるわけで、やはりそういう現実を手放しに否定できる立場ではないわけだ。冷静に見れば、このCMのストーリーの構造って結局は「地味でコンプレックス強い女子が、彼女の隠れた良さに密かに気付いたイケメンに想いを寄せられて変わっていく」という古典的な女子向けフィクションそのものだし。その定型を踏まえて2015年現在のリアリティを踏まえてアレンジしたドラマ、としては非常によくできていたのかもしれない。CMとしては結果的に失敗だったけど。

とにかく、是非はともかく多くの女性(私も含めて)に多大な衝撃を与え、以上の様なことを考えされられてしまうような作品を創ったスタッフはおそらく只者ではないだろうし、かの主人公やメガネ上司も含めて演じていた役者さんの演技はみな素晴らしかったので、この騒動に振り回されることなく今後もさらに幅広く活躍していただきたいところです(`・ω・´)。

……そして私と言えば、相変わらずこじらせた自分を抱えたまま、ルミネでもマルイでもなく無●良品やG●Pでボーダーのカットソーを買い続けることだろう。それは別にルミネへの批判や抗議でもなんでもなく、単に私自身の嗜好と経済的事情のみによるものである。

蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

3件のコメント

  1. こんにちは。
    実はイケメン君の人物像についてはご指摘を頂きまして、ザックリ違う事が判明しました(苦笑)
    追記を入れてますのでご覧下さい。

    基本的には、最初の男の発言をそのまま肯定している内容との評価は違うだろうと思ったので記事を書きました。その部分はそのままでいいんだろうと思いますが。

    やはり他人の創作物を解釈していくのはなかなか寒い作業ですね(苦笑)
    わたしは随分踏み込んで書いちゃってますので。

    では、はてぶでよく拝見してたので少しお近づきになれて嬉しかったです。
    言及ありがとうございました。

  2. 一部文章がラリっていたので書き直します。すいません…

    『「最初の男の発言を素で肯定している内容」という評価は違うだろうと思ったので、記事を書きました。
    その部分に関しては、見方は変わっていないのですが。』

  3. >エレニさん

    コメントありがとうございます。
    当記事を読み直してみると、結局エレニさんの記事の主旨を表現を変えて書き換えたに過ぎない内容なのですが(^_^;)。

    追記の方拝読しました。確かに、例のイケメン君のキャラと行動をどう解釈するかでCMの印象もだいぶ変わってきますよね。

    私的には、このイケメン君と主人公は「(男or女として)自信が無い」実は似たもの同士、という印象を受けました。そして、他の方々のコメントなども含めて振り返って見ると、第一話のメガネ上司(容姿含めて微妙っぽいのに自分はイケてるつもりで上から目線)とこのイケメン君(容姿は実はそこそこなのに自信が無く不器用で押しが弱い)もまた精神面で対比するキャラになっているのかな、と。

    こうして見ると、フィクションの引きとしてはよく出来ていたのかもしれませんが、仰る通り、演出面でこうしたストーリーの含意を伝えきれていなかったと思います。CMとしてはちょっと難解過ぎましたよね。

    くり返し、コメント大変励みになりました。ありがとうございました。

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