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(更新:2023年9月9日)

【エッセイ】デイドリーム・ビリーバー —STAP細胞騒動について—

冷静に顧みれば、自分とはほぼ関わりの無い事柄であるにも関わらず、新しい情報が出てくるたびにどうにも脱力感と失望に打ちのめされるのが、例のこの一連の件だ。

論文一時は却下…かっぽう着の「リケジョ」快挙 : 医療ニュース : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞

小保方さんSTAP細胞開発に成功…早稲田大の指導教員が当時を語る – Ameba News [アメーバニュース]

そもそも、この一報が大々的に報道されたとき、私は一応は後輩に当たる彼女の「ノーベル賞は確実な快挙」に対し少なからぬ羨望と嫉妬を抱いたものだった。そもそも生来ドの付く文系、それも「あらゆる学問の中でも最も簡単」と言われる国文学を辛うじて学部生として収めたに過ぎず、英語はおろかネイティブの日本語も操るのにもおぼつかない、かといって他に誇れる資格も技能も無く、もちろん何の実績も無く、目下の仕事の能率も質も人並み以下と言わざるを得ない私。片や奨学金を受けながら教授の肝煎りでハーバードに留学、そこでも担当教授の絶大な期待を受け、帰国後も理研で第一線で予てからの研究に励み、ついに長年の努力と研鑽が見事に報われて、若干30歳にして数多のベテラン(男性)研究者に先駆けて己の積年の夢、そして世界的な業績を成し遂げる……。

そして、その影には様々な優れた師や先輩たちの支えに加え、割烹着を譲った祖母を筆頭に彼女の進路と夢を応援してくれている家族と、デートの時に仕事の事を考えていても文句言わずに理解して付き合ってくれている彼氏の存在。さらに、普段使いに5万円以上する指輪を身に付けヘアメイクやファッションも意のままに装える(様々な意味での)余裕。……専攻が全く異なるとは言え、同じ女性、同じ大学、そして一応は同じ30代と言っていいのに、片や地位も名誉も夢も、そして愛も理解も、全てを手に入れているのに、私はそのいずれも何も手に入れることが出来なかった……どの要素を取ってもあまりの格差、落差を思い知らされて、自分のこれまでの時間も現在の存在も、彼女のペットのスッポンほどの価値も無いんだろうな……といささか落ち込んだものだ。

うちの母など、輝いた表情で会見に挑む彼女の勇姿がテレビに映るたびに「若いのに偉いねえ……あなたより年下でしょ? しかも綺麗だしセンス良いし、ご家族も立派なんだろうね」「やっぱり、女は仕事ばかりじゃダメね、身なりもちゃんとしなきゃ、だからこそ成功するんだから!」「あなたも、いつも家の中で同じような地味な服着て、お風呂も髪の毛も適当だし、もっとちゃんとしないと……」とか言われるのでどうにも肩身の狭い思いをしていた。確かに両親から観れば子供たち、とりわけ長女の私に対する投資は完全な失敗だろう。彼女と似たような分野に進みながら紆余曲折有って結局主婦をしているが、何より孫を二人もうけた次女(妹)はまだしもだ。……しかし私は才能も努力も乏しかったし、目下様々な面で余裕が無いのは全く持って自業自得なので、それはそれとして、とにかく彼女のことはやはり女性、それもレベルは違えど社会で立場を築こうとしている女性というカテゴリーにおいて、やはり喜ばしく、誇るべきと思っていたのだ。

輝く「リケジョ」 ものづくりに生かす好奇心と個性  :日本経済新聞

男女共同参画白書によると、日本国内の研究者に占める女性の比率は約14%。年々比率は少しずつ高まっているが、欧米諸国の大半が30%を超えるのに比 べ水準は低い。日本は欧米に比べ、家庭と仕事を両立したり育児期間後に復帰しやすくしたりする支援が遅れているのが要因と言える。

未だ、というかここ近年に至ってとりわけ、「社会」における女性の立場は厳しくなっている。少子化も有って、「主婦になって子供を(二人以上)生む」以外の進路に対する有形無形の抑圧や蔑視が大きくなっている。特に理系の研究分野においては女性が選択することも、選択した以降も厳しい状況に有ったりする。それを、そのような世間のプレッシャーには頓着せず、一見何の気負いも無く、やみくもなキャリア志向やまして旧弊なフェミ志向ともおよそ無縁そうな、ただただ純粋に好きなことを追いかけてその道の高みに達し、その一方で女性としての人生もマイペースに楽しんでいる。これでゆくゆく彼氏と結ばれて子供に恵まれればまさに完璧、女性としてこれほど理想の人生は無いだろう。むろん、それを実現し維持するだけの天賦の才能と並々ならぬ努力が有ってこそのものだが、それでも世のこれからの若い女性たち、とりわけ彼女と同じような研究者としての道を目指す女子たちにはどれだけ力強い先達であり、希望であることか。そして、何よりこの自分が彼女の百分の一でも真面目に努力して、己の生活と目標の向上を目指すための励みになる……と思っていたのだが。

科学記者の視点から見ても、小保方氏の「女子力」は確かにエポックだった – ITとエレクトロニクスの知的備忘録

STAP細胞 小保方さんら論文取り下げへ NHKニュース

小保方さん博士論文、20ページ酷似 米サイトの文章と:朝日新聞デジタル

小保方さん、博士論文撤回を早大に申し出 – 社会ニュース : nikkansports.com:

私などは生物学にはおよそ無知なこともあって、最初に画像の使い回しが有ったとか、追試が出来ないとか聞いても「これほどの大発見の論文ともなれば資料も記述も膨大だろうし、忙しさや焦りも有って多少のミスも出るだろう」「文字通り生物、自然が相手だし、条件や環境の違いも有るだろうし、そう予想通りに上手くいくとは限らないんだろう、気長に待つべきだ」とか思っていた。そのうちネットで疑惑の報告が相次いでも、「大発見が勘違いだったとかいう話は昔から有るらしいし、きっと勇み足だったのだろう、残念だけど故意でなければいいかな」ぐらいに考えようとしていた。しかし、博士論文に多量のコピペが有ったというニュースが出た時には、ようやく「これはもうダメだ……!」と思い至った。いくら無知でも、まっとうな知能を持つ大人なら、いや、小学生でも「他人の宿題やテストを写してはいけません」程度の理屈は分かろうと言うものだ。そして、先日の記者会見からの世間での急転直下ぶりは周知の通り。もっともSTAP細胞の存在はまだ否定されたわけではないのだが、状況証拠からは99.9%は「NO」だろうし、もはやそれとは別の、それ以前の問題になっているのだ。そしてとうとうこんな疑惑まで出てきた。

つなごう医療 中日メディカルサイト | STAP疑惑底なし メディア戦略あだに

意表を突くアイデア、人工多能性幹細胞(iPS細胞)をしのぐ実用性…。世界を驚かせた論文は、若い小保方氏をみこしにかついだ腕自慢の面々による共同作業だった。

笹井氏は小保方氏を大舞台に押し上げようと奮闘。会見に備え、理研広報チームと笹井氏、小保方氏が1カ月前からピンクや黄色の実験室を準備し、かっぽう着 のアイデアも思いついた。文部科学省幹部は「笹井先生はうれしかったんだと思う。iPSが見つかるまでは、笹井先生が(山中伸弥京都大教授より)上にい た」。会見ではSTAP細胞の優位性が強調された。

もう、細胞はおろか、私がもっとも好ましく思い希望を抱いていた要素が、元から何もかも虚偽だった可能性が濃厚に成ってきた。それどころか、下手をしたら女性性の最も醜悪な利用の典型を見せつけられることになる……ついでに「早稲田理工系のコピペは文化」なんて話題まで出回り始めた。いやいや、理工系の事情は知らんが、少なくとも私の学部学科ではそんな文化無かったから! 少なくとも私の回りでは見たことも聞いたことも無いし、まして私は一切やってないから! 卒論だって……まあ、所詮は原文と先行の論文を片っ端から引用して、その間に自前の見解のようなものを少しばかり差し込んだだけの代物ではあったが、それでも自分の手で書きましたから!

しかし、私の手前勝手なショックや憤りなどはどうでもいい。一番の犠牲者は貴女たちだ。とりわけ早大理系学部の出身者はこの先どれだけ真摯に勉学に励み研究に打ち込んだとしても、偏見は避けられないだろう。

STAP論文:後輩リケジョ「残念」「信じたい」 – 毎日新聞

気持ちはよく分かるが、ここはやはり、貴女たちが率先して怒るべきだろう。ある意味「彼女」を利用した大学に対して、組織に対して、メディアに対して、そして、社会そのものに対して……。

あと、やっぱり、見た目なんてただの飾り! そんなものに一切構うな! 惑わされるな! 惑わすな! そんな暇が有ったら仕事しろ! 勉強しろ! まして女子力など無用の長物! 人は中身が一番大事!

『もっとも、きみは中身もわるいけど……』by ドラえもん

蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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