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(更新:2023年10月4日)

【時事】残酷なルサンチマンが支配する —「恥」を捨てた人々—

「で、あなたの不愉快なのは」と、彼は言い足した、「いやな役をやるのはいつでもわたしであり、わたしはけっして抗議しないのに、あなたはあくまでわたしを口ぎたなくののしるってことです。ためしにときどき役割を逆にしてみたらどんなもんですかねえ」
「わしの顔に石が当たることがあるのはありゃなんじゃ? やつらにわたしに石をほうるようにそそのかしているのはおまえじゃないかな?」
「わたしにそんなことができたら、もっと石を食ってるでしょうよ」

ボリス・ヴィアン『心臓抜き』

せっかく猛暑が収まって、連休中もなかなかいい陽気が続いているのに、このところどうにも気分が晴れない。新潮45の杉田議員擁護企画とそれに対する批判、いまだ紛糾が耐えないライトノベル表紙のゾーニング問題、「ロボデリ」風俗、バナナマン日村の「淫行」騒動……こんな話題が嫌ならネットなんか観てないでどっか遊びに出かければいいのだが、先立つものも無いし生理前だし心身のストレスも溜まっているしでそんな気力もなく……。

とにかくうんざりするのが、ラノベ表紙問題にしろ、新潮45の記事とりわけ小川榮太郎のろくでもない妄言に対する一連の抗議や不買運動にしろ、それに対する擁護というのがやれ「表現の自由」の侵害だ、弱者やマイノリティであることを盾に「普通」のマジョリティの権利を侵害している……といういうものだ。「表現の自由」にせよデモの権利にせよ、これまでの歴史で大多数の被支配側の弱者として底辺に追いやられてきた人々が、公権力の暴走や搾取からおのれらの心身の安全や尊厳を守る、あるいは獲得するために数多の犠牲を払ってようやく手にしたはずの権利とその論理が、目下まさに権力や強者やマジョリティがマイノリティの必死の訴えを侮蔑とともに黙殺し、弱者のなけなしの抵抗や異議申し立てを嘲笑とともに撥ねのけたいがための理屈や詭弁に臆面も無く濫用されているのだ。

なぜ抗議されて廃刊が良くないのかと言えば、党派同士の闘争の材料になってしまうからです。「気に食わない相手を潰せ」という抗議が有用性を持ってしまう危険性をはらんでいるからです。

— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) 2018年9月21日

天下の国会議員で一国の首相のお気に入りの身でありながら、その地位に奢りマイノリティへの軽視と無理解を公言している人物に対しての抗議や批判が人格攻撃とかメディア・リンチ呼ばわりされ、見るからに幼女や少女同然の女性キャラが半裸にされあからさまに異様に胸や臀部が誇張されているようなイラストを描くなとは言わない、せめて性徴前の子供の目につく場所からは区切って離して置いてくれ、という程度の話が「(モテない)オタク男性に対する迫害」「生まれつき早熟で巨乳な女性への偏見」と決めつけられ逆ギレされ、LGBTを痴漢と同様に扱うような当事者への侮蔑と無知と偏見に満ちた暴言を掲載した老舗大手出版社発行の雑誌への不買や廃刊運動が「言論弾圧」と言われ焚書やナチズムと同様の所業と揶揄され、あまりにも就業者である女性の尊厳と心身にとって危険すぎる性的サービス業への非難が「コミュ症やSM趣味の男性への性の自由の抑圧」「(売春業の)女性に対する偏見と職業選択の自由への介入」と抗弁され、30歳の成人それも当時から人気タレントである男性がファンの未成年を呼び出してセフレ扱いして無下に捨てるという行為が過去の笑い話、災難として同業の先輩たちから擁護される一方で、未熟さにつけ込まれた結果16年経っても癒えない心の傷を抱えた女性の訴えはハニートラップとか金目当て呼ばわりされた挙げ句に「男性の権利とキャリアの侵害と人生への破壊活動」と見做されつるし上げを食らうのである。

まるで、連日嫌がらせを繰り広げる相手に対しての必死の反撃を「逆ギレの果ての暴力」呼ばわりされ事なかれ主義や保身に走る第三者に喧嘩両成敗とやらに持っていかれて、そのくせ抵抗した側だけが責められるような理不尽な理屈がまかり通っているのだ。私など昔、学校の休み時間にクラスメートに取り囲まれて「○○菌、クラスの恥(そうなの?)」「なんでそこに座っているんだよ(自分の席だ)」「ムカつく、出て行け(大勢で取り囲んでおいてどうやって出て行けと)」とか例のごとく口々に罵られて寄って集って机や向こう脛を蹴っ飛ばされたり足を踏んづけられたりして、耐えきれず「止めてよ!!」と叫び、に一番しつこく蹴りを入れてくるひとりを突き飛ばすというか押しのけようとしたとたん「あー、暴力だ、コイツ暴力振るったぞ!!」と大げさに顔をしかめられ大声を上げられ、それと同時に「キチガイ!暴力オンナ!!」「暴力はいけないんだぞー!」とかやいやい騒がれる中で寄って集って袋叩き(物理)に遭い、その後は教師から「あなたがそうやってキーキー暴れるから悪いの!もっと上手くあしらいなさい」と言い捨てられ、その後さらに母親から「あなたはどうして問題ばかり起こすの?もっと上手く周りと付き合えないの?」と泣きながら説教される……という苦い体験を思い出してふさぎ込んでいたが、しかし、正直言ってこのような事態が立派な大人社会の間でも幅を利かせつつあるようで、正直かなりシビアな事態だと思う。

私自身はもともと左翼やフェミを名乗るほどの見識はないし、偏狭で実効性のない左翼活動や過激なミサンドリーには与したくはないが、それでも以上を見ているとどれもこれも、この世には「男性」のための権利や自由こそが唯一の天賦にして無謬の絶対不可侵のものであり、それ以外はあって無きがごとくに思えてくる。そもそも「まともな」男性以外はまともな「人間」ではなく、たとえばLGBTなどはまさに「人間」のなり損ないであり、女性一般というのはわずかな例外を除いてはまともな「男性」のための付属品であり獲得物でしかないのだ。したがって、これらのLGBTや女性の側の権利や自由というのはあくまでまともな「人間」たる男性の温情や許容の範囲で与えられるもので、これらの「人間」のなり損ないどもはその範囲内の「権利」や「自由」で満足し甘んじなければならず、それ以上の「権利」や「自由」を求め獲得しようとする行為というのは「人間」の分を超えた我が儘、傲慢、越権行為であり、まともな「人間」である男性の権利を侵害する脅威なのだ……だからこそ、たとえば8歳の少女の「これ気持ち悪い」という何気ない一言に対して仮にも成人した大の男たちが躍起になって嘘だとか盛ってるとか必死で否定しなければならなくなる。もっとも、この程度の真理は、それこそとうの昔にフェミニズムの初歩の論文にでも書かれているのだろうが。

「キモいものは迫害していい」を正義と信じた人たちは実在するが今まで恭順してきたオタクが反撃をする時代になった説

しかし、それにつけても、ある種の男性そして人間たちが、そういう自分たちを心底からむしろ「弱者」であり被迫害者と信じてやまないのには、心底から救いようがなく暗澹とさせられる。彼らは「まともな」男そして人間としての当然の権利、本来おのれの従属物であり獲得物であるべき「女」に顧みられずその身体を得ることができないというのは、とんでもない「人間」としての権利の欠陥であり、男として人としての耐えられない尊厳の剥奪に等しいのだ。だからこそ8歳の幼女の発言や(当時)16歳の少女の訴えに対しても臆面も無く被害感情をダダ漏れにし声高に主張してしまう。彼らは本気で彼女たちよりも危うく惨めな立場にあって、ほんらい自分が従えるべき「女」「子供」にすら権利を否定され立場を侵略される哀れなか弱い存在だと信じてやまないのだろう。こう言ってはなんだが、いくらなんでも、それこそ男として人としてあまりにも情けないと思わないのか?

私など、物心ついた時から毎日のように「キモい」というような言葉で罵られ物理的精神的に殴られ続ける子供時代を過ごし、長じて思春期を迎えてからは初めて好意を抱いた相手に「キモいから近づくな」と面と向かって言われ、やがては非モテとかオタクな男性からさえ未だ揶揄され忌避されるようないわゆる腐女子のはしくれとして半生を送り、そして案の定、男性一般そして社会の「まともな」他人からは顧みられることなく、ろくな稼ぎも貯金もないまさしく社会の底辺の一介の「キモくて金の無いオバさん」と成り果てたわけだが、それでも、小学生の甥っ子や就学前の姪っ子の前からは同人誌は隠すし子供たち一般には曲がりなりにも「大人」としての振る舞いは保とうと心がけているのだ。それが、彼らにとっては「子供」たちとりわけ女児、LBGTの少年少女たちなどは「大人」として保護し教え導き支えるべき存在のうちには入っていないのか。のちのち自分が「まともな」男として獲得し従え、あるいは刹那の快楽や欲望の捌け口とするための道具に過ぎないとでもいうのか。

なんだか言い様がそれこそミサンドリストじみてきてしまったが、もちろん、実際には社会のほとんどのまっとうな男女あるいはその他の人々がそれぞれ互いを尊重しあいながら交際し子供たちを守り育てているものだ。しかし近年さすがに以上のような、手前のトラウマやルサンチマンから生じる被害者意識や妄想に取り憑かれた面々の存在や物言いが幅を利かせ、マイノリティとされる人々に敵意を剥き出しにして圧迫しにかかっている。その根底にあるのは実はむしろ自己投影、自己嫌悪ではないだろうか。

たとえば件の小川榮太郎氏などは文芸評論家を名乗ってはいるが、実は修士課程終了後の経歴がはっきりせず数年前に出た安倍晋三礼賛本以外にまともな著書や論文が見当たらないと言われていたところへ、予備校教師をしていたという情報を見かけた。要は文学研究では芽が出ず身を立てられず、ついでに言えば女性にもモテたことがないまま予備校講師で糊口を凌いでいる生活の中で挫折感とルサンチマンを募らせ極右カルト思想に染まっていったのだろう。そして先ほど3選を果たして得意の絶頂にいる現首相などは、名家の御曹司に生まれながら東大はおろか旧帝大や早慶にさえ入学できなかった経歴に加えて偉大な?祖父の存在やその娘である母親からのプレッシャーなどからくるコンプレックスがおそらく憲法改正への執着や数々の反動的政策や思想、そして公私の「友人」たちのパーソナリティや知性品性の程度に反映している。ついでに言えば、これら現首相の取り巻きの端くれというか金魚のフンであり性懲りもなく稚拙で醜悪な発言や落書きを垂れ流している自称漫画家のはすみとしこについては、言うまでもなくアレが漫画家を名乗っていること自体が漫画そしてすべての漫画家に対する冒涜というものだが、たしかにあの落書きから察せられるスキルと感性と知性と精神の成熟度からみても、『ジャンプ』はおろかまともな商業誌にはまず相手にされないだろうし、かといってまともな勤め人などできるはずがない、とくればその辺りの世界への挫折感と復讐心が一連の愚行の原動力となっているのだろう。

そして、これらの面々が世間の有象無象、非モテオタクやら拗らせワナビーやら半端なベンチャーやらフリーランスやら元ヤンやらワープアやら元オタサーの姫やらのそれぞれのルサンチマンの求心力となり、さらにひとつの意思として集約し肥大化していく。曰く「まともな」人間である自分たちが報われないどころかバカにされたり儲からなかったりモテなかったりするのは世間が間違っているからだ。そして世の中を駄目にしているのは、分を弁えずに出しゃばってきて喚きたてて、自分たちが得られるはずだった権利を奪い取ってのうのうと暮らそうとしている女どもやゲイやオカマや在日朝鮮人や移民どもだ。自分たちはあいつらのような二級の人類とは違うはずだ。そんな奴らにどうして「まともに」男としてあるいは男を立てて従って利用してきた自分たちがこれまでの権利を奪われた挙げ句、今までの苦労や犠牲を徒にされ否定されなくてはならないのか……ついでに言えば、かつて自分たちの国があれだけ一生懸命戦争して手に入れたものをすべて奪われ、かつての敵国に支配されそれまでの制度も否定され憲法も押し付けられた挙げ句にかつての支配していたはずの連中に経済的政治的にも大きな顔をされているのは理不尽だ。自分たちはこんなに「まともに」苦労して頑張ってきたはずなのに。自分たちは間違っていない。自分たちが劣っているはずがない。馬鹿にされるいわれは無い。だから間違っているのは世界のほうだ。あいつらが身の程知らずにものさばっているのが悪いんだ。だからあいつらさえやっつければいい。あいつらへの攻撃はまっとうな自衛であり正義の戦いなんだ……。

【悲報】小川榮太郎氏、批判を集めすぎて陰謀論に逃げ込む

「私への誹謗中傷のツィートが余りにも組織的」「司令塔なしに不可能なレベル」新潮社社長のコメントは「幾ら何でも早すぎる」「新潮社のアキレス腱を狙った悪質な組織的圧力」「リベラルファシズムの時代の到来」とか香ばしいフレーズ満載w pic.twitter.com/Au2ZSEgFjx

— GEISTE (@J_geiste) 2018年9月23日

現状はやはりこういうところだろう。こうして彼らはおのれが生み出したルサンチマンという怪物に取り憑かれたまま、その底無しの深淵に呑み込まれていくのだろうが、そんな自爆に巻き込まれる人間や世界にとってはたまったものではない。自分自身のうちに尊厳を見出せないからといって他者の尊厳を否定したり奪ったり踏みつけていい道理はない。もっとも、そんな自分の尊厳や良心を持たずその概念すら歪んでいる、あるいは元から持ち得ない輩だからこそ、他者のそれらも理解できないのだろうが。要は「恥を知れ」ということに尽きるのだろう。いくら「」を捨てるのと引き換えに一時の自己顕示欲を満たし幾ばくかの金と安穏を得たところで、それで自らの内に巣くうルサンチマンという脅威を消し去ることはできないのだ。私自身ありとあらゆる肥大化したおのがトラウマとルサンチマンを引きずりながら今後もこの世界の片隅で生きていくのだろうが、それでもぎりぎりひとりの人間としての「」だけは忘れず捨て去らずにいたいと思うのだ。

心臓抜き (ハヤカワepi文庫)

ボリス・ヴィアン

蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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