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(更新:2023年9月9日)

【エッセイ】怒りをこめて振り返れ ー 想像力や共感力の欠如は罪である

最近、少女の連れ去り(未遂)事件が相次いでいるように感じるが、先日の岡山女児監禁事件でも、なんだかお定まりのように「少女はなぜ逃げなかった?」とか宣う輩がTVやネット上に湧いてきて、あまつさえ被害者、それも11歳やそこいらの少女の落ち度をあげつらうような発言がネットに溢れていたようだ(想像するだけでおぞましいので、あえて関連の記事は見ない、検索しないようにしていた)。うちの母なども、「小学5年生にもなったら、車に乗せられる前にでも大声を上げたり、助けを呼んだり出来るんじゃないの? どうしてずっと黙って言いなりになってたのかしら?」とか呟いていたなあ…┐(‘~`;)┌。

誘拐されそうになった時の話と、岡山の事件について

今回の岡山の誘拐監禁事件について、被害者はテレビを見て寝転がっていたのだから誰も傷付いていないだの、
なんぼなんでもくつろぎすぎだろwなどの揶揄、非難、
「抵抗していないのだから合意」みたいな意見が散見された。
11歳の子供に。この先何年も閉じ込められていたかも知れなかったし、命を取られてもおかしくなかった状況から生還した被害者に、
一体何を求めているのか。

ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事件被害者保護のために

大人でも、どうでしょうか。突然、自分よりずっと大きくて力のある人が目の前に表れて、刃物で脅す。どんなに大きな恐怖と不安でしょうか。
この相手の言いなりになるしかないでしょう。現実に、刃物で刺されることの恐怖もあるでしょう。さらに一般的に言って、子どもなどの場合は、大きな相手に強く言われてしまうと、逆らえないことがあります。ヘビににらまれたカエルのような状態です。

こうして、似たような監禁事件や(性的)暴力事件が起こるたびに「抵抗しなかった、逃げなかった被害者批判」が湧いて、それに対して「いや、そのりくつはおかしい」と、逐一カウンターの意見や分析が出てくる……というこれまでに何万回と性懲りも無く繰り返されたパターンだ。私にしてみれば、そもそもこの程度の理由をわざわざ説明しないといけないレベルの想像力、思考力の人が存在すること自体が、そもそも想像の範疇外なのだが。かの、日本犯罪史上最もおぞましい暴行虐殺犯罪、「綾瀬女子高生監禁強姦殺人事件」でも、今では信じがたい話なのだが、被害者の17歳少女に対して「逃げるチャンスは何度も有ったのに積極的に逃げようとした気配が無い、だから被害者は犯人グループの遊び友達の不良だったに違いない!」とか、一時まことしやかに報道されていた。まったく、想像力や思考力のすっぽ抜けた人間が発言力を持ってしまうことほど有害なことはないと思うが、とみに近年になってそういう輩ばかりが「無能な働き者」よろしく悪目立ちしている……。

Twitter / takenoma: 韓国が慰安婦の像を作るなら、日本は、嘘をつく老婆の像でも作ったら…

百田氏、NHK番組の強制連行発言に意見 放送法抵触か

 

ところで、’97年に台湾にて人気女性スター・白冰冰と漫画原作者・梶原一騎との間に生まれた当時17歳の娘が身代金目的のグループに誘拐された挙げ句殺害、川に遺棄されるという凶悪事件、当の台湾ではデモが起こるほどの騒ぎになり、被害者が日本人、それも(いわく付きの)有名人の血を引いているということもあって日本でもかなり大きく報道されたのでご記憶の方も多いとは思う。当時、私はまだ学生だったが、所属するサークルでも雑談の流れでその話題が出たので、当然、事件のあまりの残忍性、暴力性を知って憤懣やるかたない私は「犯人全員、早く捕まって欲しいですよね! 全員残らず死刑にしてほしい。いっそ、豚の餌にでも出来ればいいのに!」とかやや興奮ぎみに発言したところ、その場にいた男の先輩たち数人から、なんとこんな反応が返ってきた。

「なに怒ってんの? ある意味、超面白い事件じゃん?」「あの梶原一騎の娘だよ? それが親父の描いた漫画の女みたいな目に遭うなんて、出来過ぎてて笑っちゃうよ」「親父があれだけ暴力や監禁やってて、母親も強欲でひどい女だし、絶対、親の因果が報いたんだろうな!」

……とかなんとか、よりによって笑いながら軽いテンションでやり合っているを目の当たりにさせられた私は当然激怒して、「ふざけないでくださいよ!なに笑い話にしてるんですか!! 彼女が可哀想、とかいう気持ちはこれっぽっちも無いんですかっ!!」と抗議しても、「なに怒ってんだよ、ただのネタだから」「実際面白いシチュエーションだろ? どうせ赤の他人なんだしさ、別に同情する義理無いじゃん?」「どうせ殺されるまでは、金持ち有名人の娘だからってんで、ちやほやされてずっといい気で暮らしてたと思うよ? 犯人たちの方がずっと貧乏人で辛い思いしてきただろうし、そっちの方がよほど可哀想だと俺は思うね」などなど、この他にもさらに酷い理屈や揶揄を持ち出して盛り上がるのを止めようとしなかった。

いやいや、そのりくつはおかしすぎる、そもそもよりによってこの事例をもってネタや冗談に出来る精神性や思考回路がまったく理解に苦しむ……と言いたかったが、その場では怒りを通り越して唖然としてしまった。(それでまた、他のサークルのメンバーも男女ともに、憤って彼らを止めようとするどころが、一緒に吹き出したり曖昧に調子を合わせて笑っているだけだったのが、また私の憤激に拍車を掛けたのだが)、結局はそれ以上抗議も、まして論破もできずじまいだった。

おかげで、未だ思い出す度に(自分にも)腹が立ってしょうがないのだが、それにしても、この手の精神性の欠落は、一部のサブカル崩れの連中に限られた特殊なものではなく、大多数とは言わないまでも意外にありふれたものであることは後々にネットの普及、主に2chやYahoo!のコメント欄などで思い知ることになった。別に、2chなどのネットのごく一部の領域だけに選りすぐりの人格破綻者や差別主義者ばかりが集まっているというわけではなくて、世間に散在するこの手の想像する意欲や能力の欠落という現象が、たまたま可視化されるようになったに過ぎないのだ。

そして、実際のところ、こうした想像能力の無さというのは、より男性に対して目に付いてしまう。だいたい、強姦に対する恐怖や衝撃というのはさすがにリアルには想像しづらいとしても、自分が十代そこいらでいきなり屈強な成人男性数人に取り囲まれ連れ去られ、これまた大の男数人がかりで押さえつけられて指を麻酔無しで切断され、挙げ句に犯行が警察やマスコミにばれた腹いせと口封じに、これまた怒りでやけくそになった大の男たちに寄って集って内蔵が破裂するほどの暴力を受け続けてひとり殺される……ということがどれだけの絶望と苦痛であるか、ごく平均的な知性があれば十分に想像出来るはずだし、想像が出来ればネタに仕立てて笑う、まして被害者を貶めるような言葉を吐くことなど、断じて出来ないはずなのだが。

 

白暁燕殺害事件 – 平社員の団塊ジュニア

(ちなみに、こちらのサイトに当該の事件の実態が詳しく解説されている。犯行や殺害の状況に、残虐さや猟奇性が誇張されて広まってしまった過程も分析されている。しかし、17歳の女の子が凶暴な男たちに寄って集って強姦されたり殴り殺される痛みは想像出来なくても、強姦したり散々虐待の限りを尽くして殺す側の想像なら、いくらでも膨らませてエスカレートさせて想像出来るもんなんですね〜)

 

思い返してみれば、件の綾瀬監禁殺人にしても、私の知る限りでは殆どの女性からはまず事件の概要を知るだけで吐き気がする、怒りと恐怖で終日気分が悪くなる、というような感想が出るのに、男性からのリアクションは総じてどうもドライ過ぎるというか、「あの事件ね、犯行現場が俺の住んでたとこの近くなんで、むかし友達と肝試しに行ったことあるよ〜」とか何の気無しに語られたり、「男同士でつるむと見栄もあったりして、ついエスカレートしちゃうんだよね。抜けると皆に対して裏切り者になっちゃうしねー」とか笑いながら淡々と呟かれたり、というものだった(もっと、他に、こう……あるだろう!)。男性はやはり社会的、生物的に共感能力が低く抑えられているのだろうか。しかし、同じ事例を見聞しても、性が違うと言うだけでここまで温度差があるというか、感情を共有できないというのもやるせないものだ(もちろん、性差だけではない、個人差も大いにあるとは思うが)。

 

たとえそういう男性にしたって、自分の彼女や妻、娘や姉妹が惨殺されようものなら当然怒り絶望するはずだが、やはり、自分の身に火の粉が降りかからないと、自分の身に置き換えてその痛みを思い知る、ということは出来ない人は多いのか(その仮想体験のために小説などのフィクションが存在するはずなのだが……)。

 

もちろん加害者側の事情や心理分析も今後の犯罪防止の為には必要だろうし、被害者側に思いを馳せたところで具体的に彼ら彼女らを救えるわけでもないのだけれど、それでも、まず、被害者の思いを中心に据えて第一に想像すること、そこをまず押さえた上で行動しないことには何も解決できない、と断言する。でないことには、先掲のような、犯罪防止や事件解決にはまったく結びつかない、被害者がさらに傷つくだけの不毛なやりとりだけが延々と繰り返されることになるだろう。そもそも、被害者の存在あっての犯罪だったり暴力なのだから。

 

付記:
ここにも「想像力の欠如による弊害」の実例が。
「あさイチ」でのこと: むだにびっくり:

それに「あさイチ」の中で、「母親に4時間も愚痴を聞かされる生活はもうやだ」とか「病気になってしまった」とかってVTRが流れて、それを1 時間半くらいかけてさんざん見たあとに、「愚痴くらい聞いてあげなさい」というメールやFAXを送ってくる感覚が私にはもう分からない。

やっぱり、想像力に性別は関係ないかも……。

蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

1件のコメント

  1. 通りすがりの者です。

    自分は男ですが男同士の会話の中に満ちている弱い立場にいる人や被害者への想像力、感情の欠如をいつも感じます。
    本当に、どこから丁寧に説明すればこの連中に理解してもらえるんだろう?と思う時があります。常に弱者が悪いと考えるあの思考は自分自身が絶対的に不利な絶望的状況に陥ったことが無い、経験主義的なとこから来てるのかもしれないです。自分の経験が世の中の全てと信じ込んでいる。そして自分がそういう状況に陥ることは自分の人生において今後も無いだろうという無根拠な自信みたいなのもあるんでしょう。本当に心底頭悪いと思うし、同じ男として恥ずかしいと感じます。

    自分が日々感じているような心のもやもやを代弁するような内容が聡明さ溢れる文章で書かれていたので思わずコメントさせていただきました。

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