アニメ『おそ松さん』を観ていて、もし若い世代の『おそ松さん』ファンが観たらこちらもハマるだろうな……と私的に感じた作品を、ドラマや映画、そして同じアニメなどのなかから挙げてみました。
※2016/11/20 付記
記事の量が増えてしまったため、ジャンル別に分けて移動しました。こちらは映像作品(ドラマ・映画・アニメ等)のみ掲載しています。
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目次
【ドラマ】【映画】『木更津キャッツアイ』
木更津に生まれ育ち、余命半年を宣告された青年・ぶっさん(演・岡田准一)と野球部OBの草野球仲間たちで結成された”怪盗団”「木更津キャッツアイ」が巻き起こすドタバタをトリッキーなストーリー展開と演出で描いた作品。完結編の映画「ワールドシリーズ」が公開されて9年近く経つので、知らない若い世代もいるかも。「木更津」に象徴される地方都市の穏やかだが閉塞した世界の中で、俗に言うマイルドヤンキー、『おそ松さん』の六つ子たちよりは多少マシな程度の境遇およびスペックの青年たち(でも無職も童貞もいる)が、それぞれどこか残念な感じの「大人」たちも巻き込んで陽気で怠惰にモラトリアムな日常を送る、という辺りはまさに世界観、テーマとも『おそ松さん』に相通じるものがあると思う。野球ネタはもちろんパロディやオマージュ満載なところも然り。しかし、彼らの日常、物語は主人公・ぶっさんの「死」によってあらかじめ確実に終焉が予告されている……。ちなみにキャッツアイメンバーの中では、十四松ファンはうっちー(演・岡田義徳)、チョロ松ファンはバンビ(演・櫻井翔)が一押しになるかも。
【映画】『A HARD DAY’S NIGHT』『HELP!』
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まさに本家『おそ松くん』原作の大ヒットと同時期に世界的に人気、一大現象を巻き起こし、現代にはロックの伝説、金字塔となったザ・ビートルズ。1966年の日本公演の際にメンバーが「シェー!」のポーズを披露したことは、『おそ松さん』でも当のイヤミが自慢していましたね。おそろいのマッシュルーム・カット、モッズスーツ姿の出で立ちのそれぞれ強烈な個性と魅力を持った4人の青年たちのステージやプロモーション戦略などは、現代のアイドル・グループの走り、という視点からも興味深い。以上に挙げた二本の主演映画ではいずれも『おそ松さん』の六つ子ばりのやんちゃで可愛い悪ガキぶりをメンバーが演じてくれています。もちろん、彼らは名実ともに世界的トップアイドルであり、何より名実ともにロック界のカリスマレジェンドであって、映画内でもリアルでも当然モテまくっているわけだが、そのビートルファンの熱狂ぶりといったら、それこそ冗談抜きで『おそ松さん』第一回のBLアイドル学園での演出の比ではないので、本気で度肝を抜かれる若い世代も多いかもしれない……。
特に、第一作の『A HARD DAY’S NIGHT』は彼らの「アイドル」としての日常を一見ポップかつ洗練された演出で描きながら、どこかシニカルな視点があって、その辺りのテーマ性も『おそ松さん』に相通じるものがあったり。一方、『HELP!』では前作を大いに上回るシュールな世界観とギャグの弾けぶりで、いずれも半世紀前の作品とは思えないほど新鮮に、世代を問わず繰り返し楽しめる。これらの映画の後、彼らはツアー活動を停止し例のスーツ姿から長髪サイケファッションに劇的なイメチェンを行い「アイドル」を脱皮、さらにトップアーティストとしての地位を不動のものしていくが、その後に作られたアニメ映画『イエロー・サブマリン』、自主制作映画『マジカル・ミステリー・ツアー』も一見の価値あり。『イエロー・サブマリン』は実はメンバーはほとんど関わっていないが、純粋にアニメとしては現在も評価が高い。『マジカル・ミステリー・ツアー』はメンバーが行き当たりばったりに撮影した映画なのでストーリーは滅茶苦茶だがそのシュールさとサイケデリックな演出が相まって、いずれも『おそ松さん』OPに通じるところがある……かも。
【ドラマ】『ど根性ガエル』
松山ケンイチ主演、今夏に日本テレビで放映のドラマ『ど根性ガエル』。昭和に一世を風靡したギャグマンガのリメイクという共通点もさることながら、このドラマについては以前の記事でも言及しているように、こちらの記事で述べたような六つ子たちへの「救済」に関する可能性、回答のひとつを示してくれているように思うのだ。たとえば『木更津キャッツアイ』がとある世界、とある時代、とある生き方の「終わり」を描いたとするなら、この『ど根性ガエル』はその「終わり」からの一つの再生のあり方を示した作品だからだ。
【感想・批評】ドラマ『ど根性ガエル』という「永劫回帰」の物語
【アニメ】少女革命ウテナ
(2015/11/24 追加)
少女革命ウテナ
川上ともこ (出演), 渕崎ゆり子 (出演), 幾原邦彦 (監督
とにかく極限まで閉塞し極限まで人工化され抽象化され、そして徹底的にまっとうな「大人」が排除された世界の中、その小世界における極めて人工的なヒエラルキーやステータスに巻き込まれ翻弄されながら、心身ともにあえて「男装」したヒロインがひとり「気高さ」のみを武器に毎回「決闘」に挑む。とにかく世界観や演出がエキセントリックな前衛映画的で、ゆえになおさらキャラクターの抱えるトラウマやコンプレックスが身も蓋もなく生々しくリアルに浮かび上がってくる(特に「黒薔薇編」はキツい……)、という趣向は『おそ松さん』にも通じるところがあるかもしれない。作中に挟まれる「影絵少女」による寸劇などは『おそ松さん』の六つ子たちがときおり披露するショートコントと同様の役割を持っている、などなど。私的には劇場版がより好きなのだが、こちらはテーマをよりジェンダーやセクシュアリティの方向に絞ったパラレルワールドである。
少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録
川上ともこ (出演), 渕崎ゆり子 (出演), 幾原邦彦 (監督
【ドラマ】野ブタ。をプロデュース
(2015/11/24 追加)
家庭や学校などの小世界、小集団のヒエラルキーというのは、本当は下らない、止めたい、逃げたいと内心思っていても、傍から言うほどにはそう簡単には変えられない、逃れられないものだ。まして若干10代の中高生などならなおさらで、だからこそ痛ましくも精神を病んで引き籠もったり自殺するなどのケースが後を絶たない。一方、このドラマの主人公・桐谷修二(演・亀梨和也)は「プロデュース」と称してこのような、高校のクラスというコミュニティ内でのパワーゲームを影からコントロールし、自分のペルソナを作り上げロールプレイに徹することで自分のステータスとキャラクターを保ちクラスメートにも優越感を抱いていたが、些細なトラブルを切っ掛けにその地位をあっけなく失ってしまう……というのが原作小説の展開だが、ドラマではオリジナルキャラで修二の分身的存在である草野彰(演・山下智久)と外部からの他者である「野ブタ」こと信子(演・堀北真希)の存在によって救われる。しかし片や自分の分身同士でのパワーゲームに明け暮れている『おそ松さん』の六つ子たちに果たして救済は訪れるのか。前回の記事で書いたように彼らを取り巻く赤塚キャラクターたちが、このドラマにおける忌野清志郎や夏木マリのような役割を果たしてくれれば良いのだが……。
【映画】フル・モンティ
(2017/12/03 追加)
先日『おそ松さん』2期第8話Bパート「十四松とイルカ」にて挿入歌で言及されていた「フルモンティ」の元ネタはおそらくこの1997年公開の英国映画『フル・モンティ』。それぞれ崖っぷちのおっさんたちがひと山当てようと男性ストリッパーを目指すというサクセスものの王道コメディだが、かつて鉄鋼業で繁栄を誇ったが現在(当時)は先の見えない不況に喘ぐ英国北部の都市シェフィールドの閉塞感を背景に、リストラに見舞われあるいは薄給の労働に甘んじ鬱屈した日々を送り、あるいは息子への養育費も碌に払えずあるいは妻の稼ぎに依存せざるを得ないなどの状況の中で父親として夫としてそしてひとりの男性としての自信を喪失し、いわゆるジェンダー・クライシスに陥っている主人公たちの有り様には六つ子たちをはじめ『おそ松さん』の男キャラたちと相通じるものがある。おもに50年代から70年代にかけてのヒットナンバーをBGMに、閉鎖された鉄工場の中でそろってリハーサルに励みまたはハローワークの窓口で踊り出してしまうメンバー(ちなみにちょうど6人)たちのシーンなどはとりわけ印象的。しかし、片や窃盗を繰り返し元上司の再就職は嬉々として妨害するが幼い息子の貯金には頑として手を付けようとしない主人公のズレまくった倫理観はどこかの長男よりはるかにタチが悪いが、同時に非常に対照的でもある。そしてそんな彼らをとりまく人種や同性愛ほか、ミソジニーやホモソーシャルといった『おそ松さん』2期からはとくに顕著になってきている問題への回答が終盤の展開そしてラストで明解に描かれているのだが、目下『おそ松さん』そして「十四松とイルカ」でのそれとはモチーフは似通っていながらまた対照的なのである。
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あと、4人のチンピラな青年が一発逆転、一攫千金を狙ってマフィアや大麻の密売人などを巻きこんでややこしい騒動を巻き起こすというガイ・リッチーのデビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ 』とか、他にも、映画のほうで色々ふさわしい作品がいくらでも有りそうな気がしますが、私の程度で思いつけるのはこれぐらいなので、他に「こんなのもあるぞ」とかいうご意見があれば、ぜひともお知らせ下さいm(__)m。
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