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(更新:2023年9月5日)

【感想・批評】ドラマ『明日、ママがいない』私見

日本テレビのドラマ『明日、ママがいない』を巡る騒動はご存じの通りであり、ドラマおよびその背景にある児童養護施設や里親or養子制度に関する議論や批判もすでに出尽くしていることと思う。その上で私などが今更書くのもなんだが、「表現の自由」がどこまで許されるのか?という問題はとりわけ最近シビアになってきているし、その表現とか創作とかいう分野に少なからぬ関心と希望を抱いてきた身としては、やはり色々な観点から心に引っ掛かり頭で色々と思念を巡らしてしまう件なので、せっかくこういう場を設けたのだから一つ頑張って形にしてみようと思う。

私が実際にドラマを観たところ、ちまたで言われているほど、そして、今回抗議した『赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)』を設置している慈恵病院や養護施設側が懸念するほどの悪質さや過激さは無い。取材うんぬん以前に、舞台となる施設(グループホーム)の設定を抜きにしても、ドラマそのものが大昔の少女漫画か大映ドラマレベルのファンタジーな世界観で、これなら流石にたとえ子供でも真に受ける方がまずい、というレベルのリアリティなのだ。子供たちをペット呼ばわりしている施設長(@三上博史)にしても決して根は悪人ではなく、彼なりの意図や配慮が有っての行動なのだな、というのはそこここに分かり易く描写されているし(おそらく彼自身も被虐待、被ネグレクト児だったのだろう)、シビアなストーリーを緩和するための意図的なギャグ&コメディシーンも多い(正直、かなりスベってはいるけど(^_^;))。また、抗議を受けての路線変更も有ってか、暴力描写も目立たなくなっている。

おそらく、ドラマの制作側としては、「異常な状況下にある子供たちの視点に立って、子供を捨てた親たちを始めとして大人たちの弱さ愚かさ、世間の欺瞞をあぶり出し、そしてそういう現実の中で健気に生きる子供たちの強さと絆を描く」というスタンスで、そのスタンスには単なる建前ばかりというわけでなく相応の真摯さも感じるが、ドラマ上の養護施設や里親制度などはあくまでそのテーマを展開するための舞台装置に過ぎない程度のもので、だからこそ「現実」の施設に対する配慮と言うより認識がそもそも念頭には無かったのだろう。したがって、そもそも元から取材する必要も感じなかったということだ。

というわけで、目下ドラマの制作側が叩かれているのは、「現実の養護施設」に対する偏見や悪意をもって描写したことではなくて、そもそも重視していなかった、関心が欠けていたところにあるのだろう。だから、これは、やはり表現形態の中でもとりわけ目に触れる層や範囲が広いテレビドラマ、それもキー局のプライムタイムのそれを制作する姿勢としては迂闊だったと思う。確かに、少し前までは養護施設や孤児たちに関してさらに酷い扇情的な描写やネタにしたフィクションというのはいくらでも有ったし、また、昔も現在もフィクション以上に酷い施設や里親先での虐待の事例は絶えず有るのだけど(この辺りの論議も既に出尽くしている)、とにかく、現在、児童虐待や遺棄、ネグレクト事件がより社会問題として顕在化して、そして表現に対する規制などの議論が世間的にもナーバスになっている現状として、「こういう題材」を「こういうやり方」で出してしまうのは、制作の態度としてはいろいろと無自覚すぎたということだ。要は、『家なき子』の手法がそのまま素朴に受け入れられるような状況じゃないということだ。

そもそも、「逆境の中で健気にたくましく生きる子供たちの姿を描きたい!(そういう健気で愛らしい子供を熱演している子役達に萌えたい!)」というだけならば、舞台は現代の養護施設である必要は無いし、ましてわざわざ実在する施設やシステムの名称をネガティブな象徴として使う必然はまったく無いわけで。

だいたい、制作側にはそもそも社会問題、というか実社会に対する関心はあまり無いんじゃないだろうか? 私が当のドラマを観たときの第一の印象は「こんな施設、有り得ないよ!」という以上に「こんな子供、居ないだろ!」というものだった。なにしろ芦田愛菜演じるヒロインの少女の設定と言えば、

「若干9歳にして、生まれてすぐ『ポスト』に預けられるという己の出生を受け入れ、親とは既に完全に決別する決心を固め、決して弱みをみせないどころか自分の現状ばかりでなく周囲の状況やあらゆる人々の心理を冷徹に見抜き的確に判断し迅速に行動し、かつそれらを明解に分析して言語化でき、同年代の仲間には深い気配りと思いやりを欠かさないのはもちろん、さらに年長の少女や時には成人に対してまでもその苦悩や孤独を理解し包み込み、さらに年少の幼児たちには日常の世話のみならず生みの母にも劣らないような献身と慈愛を注ぐ」

……もはや健気とかたくましいとかいう程度では無い。こんな9歳児はおろか、ここまでの超人は成人女性にも存在するかどうか、おそらくプロの養護施設スタッフやカウンセラーにもそうそう見当たらないのでは……というレベルなのだ。現実にこういう少女が存在しうるならば、そもそも虐待やネグレクト自体が起こらないだろう、というほどの。他の少女たちにしても、いくら並みの子供以上の辛酸を舐めていて、かつ並みより感性も頭も鋭く気丈だとはいっても、言動も嗜好もあまりに年齢にしてはタフすぎるし早熟過ぎるような気がする(ついでに言えば、小学生の分際であまりに恋愛脳過ぎる)。

つまり、このドラマ上のあらゆる設定やディティールの中で、最もファンタジーなのがこの子供たちの存在なのだ。どうにも、ドラマを批判している側、あるいは批判している側を非難している側とは別の意味で子供たち、というか少女たちへの幻想や願望を押し付けまくっているのである。ぶっちゃけ、よりによって9歳女児に「母親(の愛情)」と「聖女(の慈愛)」と「女(の魅力)」を同時に要求するなよ! 大人から見離された少女たちを救うどころか、むしろ少女たちに救われて癒されたがっているのはあんたらじゃないの!?……と。もし、本当に真面目に子供たちに関わる大人たちの思いや愛情をリアルに描くつもりだったら、まず子供たちのキャラクターだけはリアルに、リアリティを感じられるように演出すべきだったのだ。

で、一方では、成人女性、とりわけ母親(里親先の養母など)のキャラはやたら駄目振りや壊れ振りが強調され悪役然と描かれ、比べて父親(夫)は総じて弱く善良で、彼等の落ち度や責任にはあまり言及されない。そういえば、キャッチコピーからして「すべての母親に、これから母親になるすべての女性に届ける」なんだな。今時、育児も虐待も育児放棄も専ら母親がするもの、母親だけに責任が有るものと思っているのか? ついでに加えれば、「施設の最年長の『売れ残り』の少女」(@大後寿々花)に対する揶揄の言葉というのが、「オツボネ」とか、「更年期障害」とか……まあ、粋がった9歳の女児からいけ好かない女子高生に対しての言葉と思えばそれなりに笑える話なのだが、こういう発想を「面白い小ネタ」として臆面も無く入れてしまう側の思考回路とかバックボーンとかを考えると……。件の『ポスト』というネーミングを巡る批判も、案外こういう微妙なデリカシーの無さが端的に滲み出ているからじゃないだろうか?

以上の様な理由から、今回の病院や施設などからの中止要請はやり過ぎとは思っても、「表現の自由」だけを盾にしてこのドラマを心情的に擁護しきれない理由だったりする……冷静に振り返ってみるとどうにも私怨っぽいですが(^_^;)。

——-

『明日ママ』に関して、私的に納得出来た記事。
『明日、ママがいない』に呆れ果てた | 破壊屋

『明日、ママがいない』は、児童の虐待とそこからの保護を考えなくてはいけない現代の作品だとは思えない。戦後を舞台にしているのなら理解できるけど。

『明日ママ』なぜ騒動に?丁寧さの欠如とエンタメ性優先が招いた、ドラマとしての質の低下 (Business Journal) – Yahoo!ニュース

ファンタジー逃げ、人気子役頼みの大人目線で、せっかくの題材が見えづらくなってしまったのが最大の汚点。三上博史のトラウマのようなものが物語の伏線というのも、どことなく軽薄で脆弱に見えてしまう。

蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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