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(更新:2023年9月9日)

【感想・批評】『おおかみこどもの雨と雪』—「感動」への障壁いろいろ—

映画「おおかみこどもの雨と雪

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先週末にテレビ放映されていた『おおかみこどもの雨と雪』、2012年の上映当時から今に至るまでとくに既婚女性、子育て経験者からの辛辣な意見はよく見うけられる。そして私もようやく遅ればせながら鑑賞したのだが、やはりストーリー上の設定や展開そのものに疑問が次から次へと沸いてきて、せっかくの演出や描写そのものに対する感動を終始削がれてしまった、といったところだ。

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  • 国立大に奨学金とアルバイトで通うほどの優秀で堅実な苦学生が、あんなにあっさり訳ありの男との妊娠、退学、出産という選択をするだろうか?
  • 身内からも外部からも援助も助言もろくに求められないことが分かっているのに、二人目を年子で作っちゃうわけ?
  • いくら訳ありの子供だからといって現代に独力での自宅出産というのは無謀すぎるし、予防接種にも定期検診にも連れて行かないで隠し通すという選択も無茶すぎる
  • 子供を二人も作ってる間に男の方は妻に対して、今後に大事な子供たちを育成していくための肝心要の情報を何一つ伝えていなかったのか……
  • あの夫の生前の働きぶりで、遺された妻が何年も働きに出ずに乳児二人を育てられるだけの貯金があったのか? 失踪扱いで保険って下りるんだっけ?
  • あんなに簡単に縁もゆかりも無い山奥のど田舎で、しかも幼児二人を抱えた自給農業生活が軌道に乗るはずがないし、コミュニティにもあんなにスムーズに受け入れられるとは思えない
  • おまけにあんなデカい廃屋の修繕まで女一人でこなすなんて、一体ぜんたいどこでそんな(TOKIO全員分相当の)体力とスキルを身に付けたんだ
  • いやいや、息子の巣立ちを喜んでる場合じゃなくて、曲がりなりにも人間界で一人の小学生として存在して認知されてきたものを、それが失踪したってのを周りにどう言い繕うつもりなんだろう!?
  • 人間として生きていく娘の方はこれから思春期の心身ともに難しい時期を迎えるわけで、むしろこれから母親として『人間の女』の先輩としての役割が増してくるはずなのに、まだまだそんなリタイア気分に浸ってる場合じゃないんでは……

……等々、とくに前半の展開からは、とにかく疑問や不安が山のように出てきて、釈然としない気分のままストーリーが進行して終わってしまう。

(もっとも、こうした母親の花の行動というのは、総じて以下のような事態を恐れてゆえのものである、というのは想像は付くのだが、だったら尚のこと、なぜ勢いで子供作っちゃったかな……という疑問にまた戻ってしまうわけで)
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「いやいや、狼人間が出てくる時点でファンタジーなんだし、テーマはそういう所とは別にあるんだからいちいちその手のリアリティに拘るなよ」という意見もあるが、いくらそれが主たるテーマではないとしても、そのテーマを語り伝える以前の段階でいち素人の目から観てもこれだけ多くの違和感が出てきて肝心の物語に入り込めない、というのはやはり看過できない欠陥だと思う。「ファンタジー」な異世界を成立させリアリティを持って周知させるには、現実世界と異なる部分に対してその世界ならではの辻褄が合う設定や雰囲気をあらかじめ端的に提示しておくか、納得がいくだけの説明を用意しておかねばならないのだ。あるいは、その矛盾や齟齬を少なくとも観ている間は一切気付かせないだけの勢いやインパクトのある演出をもっと投入するか(それこそ全盛期の宮崎駿作品のように)。

『おおかみこどもの雨と雪』観ました – ←ズイショ→ 『おおかみこどもの雨と雪』観ました - ←ズイショ→ このエントリーをはてなブックマークに追加

あのような、どう取り繕っても苛酷かつ悲惨極まりないシングルマザーの生活ぶり(現実だったら正直なところ育児放棄や無理心中を図っても擁護の声が 挙がるレベル)を何の屈託も違和感もなく受け入れて感情移入でき、素直に感動して楽しめる人たち、というのは出産や育児という事態に未だリアリティを持ち 得ない十代前後の世代か、そっち方面へのリアリティを持つ必要もなく過ごしてこられた年配男性、独身男性ぐらいだと思われるのだが。もっとも、早くに母親 を喪い、他に頼れる縁戚の女性も同性の友人にも恵まれないまま類例のない「異形」の子供たちを生んでしまった孤独な若い女性が、出産育児の手段は一から書物で独学する以外になかったという設定は、現代の核家族化や地方の過疎化などで世代間の交流が希薄になり、若い世代への育児ふくめた情報の継承が断絶しかかっている状況を象徴している、と言えるかもしれない。しかし、だからといって例えばそのまま多世代家族や田舎のコミュニティへ回帰することが それこそ現実的とは思えないが。

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やはり現代日本(と同様の世界)を舞台に、ごく普通の成人女性が人狼という存在を理解し受け入れ、かつ子供までもうけ、そして人間社会の中で育てていくと いう設定、そして子供たちがその生まれを理解し受け入れてそれぞれの世界に適応していく、という展開でもって万人に対して説得力を持たせるには、二部作か 三部作にするくらいの尺が必要なのではないかと思う。第一作でまずヒロインと「おおかみおとこ」との出会いから、それぞれの生いたちや背景も描きつつカミ ングアウトを経て悩みながらも結婚を決意、そして妊娠、出産に至るまでを描き、続編でおおかみの血を引く子供たちを育てていく過程、逡巡、苦悩をじっくりと展開し、そしてさらなる続編で成長した子供たちがそれぞれのアイデンティティと社会の葛藤を経てそれぞれの道を選び自立していく……というようにじっくりシリーズ化しながら世界観を構築し徐々に周知していく、というくらいの方策が必要だったのでは。とは言え、実際には幅広い世代に一般に好評で大ヒットしてこうしてテレビ放映もされてるわけで、その辺りがわりと不思議ではある。

ただし、この物語の本題というのはタイトルにあるように、「社会一般の基準から外れた個性、障碍」を持った子供たちを親の側がどう育てていくか、そして子供たちは自分の個性や障碍を抱えながらもどう社会と折り合って成長していくか、というものだと思う。しかし、その視点で観ると、娘の雪の葛藤はかなりリアルに繊細に描写されていたのに対し、息子の雨の心理描写がやや不足していたように感じる。曲がりなりにも自分を抑えることで学校生活に適応していく姉との対比の面でも、もう少し彼が人間界でのコミュニケーション不全で悩む様子や、最初は恐怖を感じていたはずの自然界へ引き込まれ同化していく場面をもっと用意して欲しかった。これは先ほど述べたような尺の問題がやはり大きいと思うが。この姉弟の描写の偏りが母親の花の、「息子=雨への偏愛」に見えてしまう一因だろう。やはり女親にとって娘は自分の分身で息子は夫の代替、というパターン、また性別や長幼を抜きにしても手の掛かる方の子供に思い入れが偏ってしまうのは現実にはありふれていて、その辺りはおのずとリアリティが表れていたとは思うが。

あるいは、この物語での「おおかみ」というのを親(のそのまた親)から受け継いでしまっている重圧なり欠陥なりの象徴とみれば、ここでの両親は自身や相手のそのトラウマを自分たちの代で解決も昇華もできないまま、結果として次世代(以降の)子供たちに丸投げしてしまったように見える。母親の花は「どちらも選べるように」と言えば聞こえは良いが、結局は子供たちにひたすら「おおかみ」であることを隠すことしか教えられていないし、何より自身が結婚前と変わらず終始コミュニティとは距離を置いたきりなのだから、子供たちがそれこそ自力で別に手本を探すなり独学するしかないわけだ。その結果、片や適応の術を見出せないまま退行して完全に社会から隔絶して(母親と同様に)引き籠もる道を選び、片やありのままの自分を抑圧しながら(父親と同様に)人間社会に埋没していく(そして母親と同様に、屈折した孤独な少年に対して惹かれあってしまう)。題材もテーマも若干被っている『アナと雪の女王』から例えれば、「一人のエルサは能力をコントロールできないまま独り山奥に引き籠もって一生帰ってきませんでした」、「もう一人のエルサは能力を封じ込めてそのまま親の言いつけ通りの従順な『良い子』を演じて生きていきました」という、いずれもリアルと言えばリアルだが、どうにも発展性の見えないやりきれないルートになってしまうのだ。もっとも、狼と人間のどちらにも割り切れず徹しきれず、狼としての本能に負けた結果命を落としてしまった父親よりはましなのかもしれないが。

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結局、この物語、私から見れば現実の母親、とりわけシングルマザーへの(無自覚な)プレッシャーぶりに加えて「複雑な生育環境で孤独に育った男女同士が共依存に陥り、自身の将来に対して明確なビジョンを持てないままに作ってしまった子供たちにさらに重い形で (負の)連鎖を負わせてしまう」という救いのない話にしか見えないのだが、それを一般の「健気な母子の感動物語」としてのみ喧伝され受容されてしまってい るところに、さらに己と世間とのズレを思い知らされて、また釈然としない気分が深まるのであった。

 

(異物や異人種の受容、社会への適応といったテーマはこのドラマがスムーズに描けていたような)

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蛇のごとく粘着だが、羊のごとく惰弱。

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